弁護士や司法書士の報酬(費用)が支払えないような低所得者であっても法律サービスが受けられるように整備されたのが、国の機関である法テラスが実施している「民事法律扶助」の立替金制度です。
民事法律扶助の立替制度は、弁護士や司法書士に法律トラブルの解決を依頼する依頼者が支払う弁護士・司法書士報酬を法テラスが立て替え、依頼者は毎月一定の金額を法テラスに返済するというものです。
この制度のおかげで、どんなに所得の低い人であっても、全ての国民が平等に裁判を受けることができるようになりました。
また、法テラスが立て替える弁護士・司法書士報酬は事件に応じて全国一律の金額が設定されており、立替制度を利用した弁護士や司法書士は法テラスが立て替える報酬額以外の金品を受け取ることが禁じられていますので、弁護士や司法書士にいわゆる「ボッタクられる」という心配もないという利点もあります。
この法テラスの民事法律扶助の立替制度を利用するためには、所得が一定の金額を上回らないことが必要で、申し込みを行う際には法テラスの収入審査をパスすることが必要です。
しかし、この収入審査は、実はそんなに厳しいものではなく、実際の手取り収入が収入基準額を超える場合であっても審査を通る場合が多いのはあまり知られていません。
そこで、ここでは法テラスの民事法律扶助の立替制度を利用する際の所得要件(収入要件)と審査の際の注意点などについて考えてみたいと思います。
民事法律扶助の収入基準額
法テラスの民事法律扶助の収入基準額は法テラスのサイトの刊行物のページでダウンロードすることができるパンフレット「民事法律扶助のしおり」の3頁~4頁に掲載されています(http://www.houterasu.or.jp/cont/100180029.pdf)。
民事法律扶助のしおりに掲載されている民事法律扶助の立替制度を利用することができる収入基準は次のようになっています。
なお、金額は全て「手取り金額」となっています。
民事法律扶助の収入等の基準額(日本司法支援センター編・民事法律扶助のしおり3頁より引用) | ||
– | 一般の地域 | 生活保護一級地 |
単身者 | 182,000円以下 | 200,200円以下 |
2人家族 | 215,000円以下 | 276,100円以下 |
3人家族 | 272,000円以下 | 299,200円以下 |
4人家族 | 299,000円以下 | 328,900円以下 |
※家族1名増加するごとに30,000円(生活保護一級地は33,000円)が加算される。 |
また、法律扶助の「申込者」もしくは「配偶者」が住宅ローンや賃貸住宅の家賃を支払っている場合は、上記の表の金額に次の表に挙げた金額を加えたものが、法律扶助の収入基準額となります。
民事法律扶助の申込者の家賃等を考慮することができる限度の表(日本司法支援センター編・民事法律扶助のしおり4頁より引用) | ||
– | 一般の地域 | 東京都特別区 |
単身者 | 41,000円まで | 53,000円まで |
2人家族 | 53,000円まで | 68,000円まで |
3人家族 | 66,000円まで | 85,000円まで |
4人家族以上 | 71,000円まで | 92,000円まで |
※これ以外にも家族から仕送りをもらっていたり(送っていたり)、同居している家族以外の者から食費などを受け取っている場合は、法律扶助の収入が加算減額されることがあります。詳細は法テラスが発行している「民事法律扶助のしおり」をご覧ください。
同居の家族の収入も法律扶助の収入基準額に含まれる
同居している人に収入があり、その同居人の収入が家計に含まれているような場合は、前述の民事法律扶助の収入等の基準額の表に記載された基準額に、その同居人の収入のうち家計に貢献している範囲の金額を加算したものが、法律扶助の収入基準額となります。
例えば、民事法律扶助の立替制度を利用するAさんが妻のBさん、子供のC、Dさんと4人で暮らしている場合に、Aさんの収入が月20万円、Bさんのパート収入が月8万円、子供のCさんのアルバイト収入が月3万円であったとします(居住地域は一般地域とする)。
この場合に、夫のAさんと妻のBさんの収入は全額が家計に組み込まれているがCさんの収入は全額Cさんのお小遣いになっているというときの法律扶助の収入金額を算定すると、20万円+8万円=28万円となりますので収入要件の範囲内となります。
Cさんのアルバイト収入3万円は家計に組み込まれていないため、法律扶助の収入要件の算定の基礎となる収入には含めません。
民事法律扶助の収入要件の算定方法の具体例
基準だけを挙げても分かりづらいと思いますので、例を挙げて収入要件に当てはまるかどうか(民事法律扶助の立替制度を利用できるかどうか)をQ&A方式で考えてみましょう。
Q1 |
東京都の八王子市に居住するAさんは手取り収入が19万円であり、家賃5万円のアパートに1人で暮らしています。この場合Aさんは民事法律扶助の立替制度を受けられるでしょうか? |
A |
東京都の八王子市は「生活保護一級地」でありAさんは「単身者」であるためAさんの収入基準額は民事法律扶助の収入等の基準額の表から200,200円であることが分かります。しかし、Aさんは家賃5万円のアパートに住んでいるため、その家賃相当額を民事法律扶助の申込者の家賃等を考慮することができる限度の表に記載された金額の範囲内で基準額に加算することができますので、Aさんの収入基準額は200,200円+50,000円=250,200円となります。 そして、Aさんの手取り収入は19万円でしたから、250,200円を下回っており、Aさんは法律扶助が受けられることが分かります。 |
Q2 |
和歌山市に居住しているAさんは所有するマンションに妻と子3人で暮らしています。住宅ローンはありません。Aさんの収入は手取り月20万円、Bさんの収入は手取り月8万円で、二人の収入全額が家計に組み込まれています。Aさんは法律扶助を受けられるでしょうか? |
A |
和歌山市は「生活保護一級地」に含まれませんので「一般の地域」となり、Aさんは妻と子の3人住まいですから民事法律扶助の収入等の基準額の表からAさんの収入基準額は272,000円であることが分かります。また、AさんとBさんの収入を合計すると28万円となりますから、Aさんは法律扶助の受けることは原則としては難しいといえます(「原則として」としたのは例外的に認められる可能性があるからです。詳細は後述します)。 |
法テラスの収入基準は「ゆるい」
以上の収入基準を見てもわかるとおり、法テラスの民事法律扶助の収入審査で基準となる収入額は極めて高いです。
例えば、「一般の地域」の一人暮らしの家賃を4万円と考えると収入基準額は金182,000円+40,000円=金222,000円となります。
現在の日本に暮らしている一人暮らしの人で、手取り収入が222,000円を超えている人がどれほどいるでしょうか?
例えば、「一般の地域」の4人家族の家賃を7万円と考えると、収入基準額は299,000+70,000円=369,000円となります。
サラリーマンの平均年収が400万円の今の日本で、毎月の手取り収入が369,000円を上回っている人がどれだけいるでしょうか?
このように考えても、法テラスの法律扶助の収入基準がきわめて高いのが分かります。
収入基準が高いということは、ほとんどの人が収入審査をパスするということです。
なので、平均的な生活を送っている人(平均的な収入をもらっている人)であれば、まず間違いなく法律扶助の審査は通ります。
法テラスの法律扶助の収入審査をパスしないのは、かなりのお金持ちといっても言い過ぎではないでしょう。
法テラスの収入審査も「ゆるい」
上記のように法テラスの収入基準は、一般的な平均収入よりも高く設定されていますから、手取り収入が収入基準額を上回るような人はほとんどいないでしょう。
しかし、仮に自分の手取り収入が収入基準額を上回る場合であってもあきらめる必要はありません。
あまり大きな声では言えませんが、法テラスの行う民事法律扶助の申請の収入審査は、極めて「ゆるい」です。
(ゆるいのは「収入」の審査であって、審査全体がユルイと言っているわけではありませんので誤解のないように・・・(^_^;))
収入基準はあくまでも「基準」であって「要件」ではありませんから、収入基準を上回る場合であっても、審査委員がOKを出せば審査は通るのです(そして、人道的見地から審査委員はOKを出したがります)。
なので、収入基準はあくまでも「目安」と考えても間違いではありません。
私の個人的な経験ですが、過去に何回も収入基準額を上回る依頼者の申請を行いましたが、すべて審査を通っています。
収入が基準額を上回るからと言って審査で落とされたことは一度もありません。
おそらく、法テラスの方でも「申請があったものは出来る限り審査を通す」というスタンスで審査しているので、少々の超過額があったとしても審査を通しているのだと思われます。
収入要件で審査をはねられそうなときは「上申書」を添付しよう!
手取り収入が基準額を上回るような場合は、民事法律扶助の申請書に上申書を添付してもらうように弁護士や司法書士にお願いしてみましょう。
民事法律扶助の申請は弁護士や司法書士が行いますが、通常は申請書に住民票や給与明細などを添付して法テラスに送付するだけになってます。
しかし、特別な事情があるような場合は「上申書」にその「特別な事情」を記載し、法テラスの審査委員(弁護士や司法書士がやっている)に自分の窮状を訴えることが可能です。
上申書はA4用紙に「上申書」と書いて署名押印するだけの簡単な書面なので、収入要件を上回るような時は、上申書を作成して提出すると審査を通過する可能性が高まります。
≪上申書の例≫
日本司法支援センター 御中
上申書
○年〇月○日
申請人 新清太郎 ㊞
手取収入が収入基準額を上回っている件について
私の手取り収入は月25万円、毎月の家賃が4万円でありますので、法律扶助の収入基準額は金222,000円(182,000円+40,000円)となり、手取り収入額が収入基準額を超えているため法律扶助の申請要件を満たしておりません。
しかし、私は子供の頃からぜんそくの持病を持ち、毎月数回は病院に通院しなければなりません。
また、IT関係の仕事をしていることもあって、最新のIT関連情報を私生活においても収集しておかなければならず、自費で講習会に出席したり書籍を購入したりする必要があり、その出費は月に4万円程度になっています。
そのため、手取り収入が法律扶助の基準額を越えてはいるものの、実際に毎月自由に使用できる金額としては月15万円ほどしかございませんので、法律扶助が受けられないとなると、経済的に非常な困難を強いられると思料いたしております。
以上のような事情がございますので、本件法律扶助の申請については、収入基準額についてご一考くださいますよう上申いたします。
以上