自己破産の申立を行う人が生命保険など保険に加入している場合には、その保険に関係する書類を証拠書類として申立書に添付して提出しなければなりません。
これは、生命保険などの保険は解約した時点で契約年数に応じて解約返戻金などのお金が払い戻される可能性があるため、自己破産の手続きでは「資産」として裁判所や破産管財人がその資産価値を把握しておかなければならないためです。
≫資産目録(説明書)の作成手順(9)生命保険等の欄の記載方法
そこで、ここでは自己破産の申立書に添付する生命保険関係の書類について考えてみることにいたしましょう。
なお、自己破産申立書の作成方法についてはこちらの目次ページから必要な書類のページに移動してご確認をお願いします。
保険証券のコピーをとる
生命保険に加入している人が自己破産する場合は、保険証券のコピー(写し)を申立書に添付して提出しなければなりません。
保険証券を紛失していたりする場合は、保険会社に連絡して再発行してもらう必要があるでしょう。
なお、提出が必要となるのは、自己破産する人(申立人)の保険証券(のコピー)です。
配偶者(夫・妻)や同居の親族の保険証券は基本的に提出する必要はありません(※但し、事案によっては裁判所から提出を求められることもあります)。
解約返戻金を証する書面
生命保険などは解約するとそれまで掛けていた保険料に応じて解約返戻金が払い戻されることがあります。
解約返戻金がいくらあるかは保険会社が発行する「解約返戻金を証する書面」に記載してありますので、「解約返戻金を証する書面」を保険会社から取得して自己破産の申立書に添付しなければなりません。
「解約返戻金を証する書面」は保険会社に連絡すると発行してもらえますが、手元に郵送されるまで数日から数週間を要する場合がありますので、自己破産することが決まったらなるべく早めに保険会社に連絡しておく必要があります。
裁判所に提出するのは原本ではなくコピー(写し)で構いませんので、保険会社から「解約返戻金を証する書面」が郵送されてきたら、コンビニなどでコピーしてそのコピーを裁判所に提出すればOKです。
なお、生命保険の契約から3年未満の場合には、解約返戻金はほとんど発生しないことから、多くの裁判所では契約日から3年未満の場合には解約返戻金を証する書面の添付は必要ないという取扱いになっています。
契約者貸付を利用している場合
生命保険の解約返戻金の範囲内で、保険会社からお金を借りられる制度を「契約者貸付」といいます。
保険会社の契約者貸し付けを利用している場合は、保険を解約した場合に実際に受け取ることができる解約返戻金は、解約返戻金の総額から契約者貸付で借り入れを行っている金額を差し引いた残額となりますので、自己破産の手続きで「資産」として問題となるのも、解約返戻金から契約者貸付の金額を差し引いた残額となります。
そのため、裁判所には解約返戻金の総額がいくらあるかということと、契約者貸付の金額がいくらあるかということを証明する資料を提出しなければなりません。
そこで、契約者貸付を利用している場合は、前述の「解約返戻金を証する書面」の他に、「契約者貸付の金額を証する書面」も併せて提出する必要があります。
具体的には、保険会社から発行される契約者貸付の貸付金残高の記載されている書面などのコピー(写し)を取って自己破産の申立書に添付すればよいでしょう。
解約返戻金がない場合
生命保険の契約期間が短かったりして解約返戻金がないような場合には、保険会社に連絡して「解約返戻金がない」という証明書を発行してもらう必要があります。
なお、自己破産の申立書には、「解約返戻金がない旨の証明書」の写し(コピー)を提出すればOKです。
自動車保険や火災保険など
自動車保険や火災保険などは、たとえ解約した場合でも解約返戻金が発生しない場合も多いです。
このように、解約返戻金の発生しない保険については解約返戻金を証する書面の添付は必要ありませんが、保険証券の写し(コピー)は申立書に添付して裁判所に提出する必要があります。
解約返戻金を既に受け取っている場合
自己破産の申立前にすでに生命保険を解約して解約返戻金を受け取っているような場合には、その受け取った解約返戻金の金額を証する書面の写し(コピー)を自己破産申立書に添付して提出しなければなりません。
これは、自己破産の申立前に受け取った解約返戻金については裁判所や破産管財人の厳しい調査の対象となるため、裁判所がその金額を把握する必要があるためです(※解約返戻金は自己破産の手続きにおいては基本的に裁判所に取り上げられて債権者に分配される性質ものであり、それを申立前に生活費以外に使ってしまうことは債権者を害する行為として問題になることがあります)。
なお、申立前に解約した生命保険に関する書類については、申立をする裁判所によってその取扱いに若干の違いがあります。
たとえば、東京地裁などでは申立前2年間に解約した保険については全て保険証券や解約返戻金を証する書面の添付が必要となりますが、福岡地裁などでは申立前1年間に解約した保険のみ提出すれば足りますので、自分が申立をする裁判所に、どれくらい前に解約した保険についても提出が必要となるのか、事前に確認しておく方がよいと思います。
「被保険者」が自分以外でも、「契約者」が自分になっている場合には、保険証券や解約返戻金を証する書面が必要となる
被保険者が自分以外になっている保険であっても、自分が保険料を支払ってきているような保険(被保険者が自分以外でも保険の契約者が自分になっている保険)については、保険証券や解約返戻金の書類の写しの添付が必要となります。
たとえば親が、子供のためと思って子供がガンにかかったときの入院費や医療費の負担軽減のために、子供を被保険者としてガン保険を掛けているような場合が考えられます。
この事例では、親が保険の契約者、子供が保険の被保険者となりますので、この親が自己破産する場合には子供のガン保険に関する保険証券や解約返戻金に関する書類の添付が必要となります。
保険の「契約者」が自分になっていなくても、保険料を自分が支払っている保険については保険証券や解約返戻金の書類が必要となる
自己破産の申立書に添付が必要となる保険証券や解約返礼金関係の書類は、基本的に自己破産の申立を行う本人が契約者となっている保険に関する書類のみ提出しておけば問題ありません。
しかし、自己破産の申立を行う人以外の人が契約者になっている保険であっても、自己破産の申立を行う人がその保険料を毎月支払っていたような場合は、その自己破産の申立を行う人以外の人の名義になっている保険についても保険証券や解約返戻金証明書を裁判所に提出しなければなりません。
たとえば、自己破産するAさんが妻B、子C、Dと4人で同居している場合に、子Cを契約者として掛けていた生命保険があり、その保険料をAさんが毎月支払っていたような場合には、契約者がCとなっている生命保険の保険証券と解約返戻金証明書の写し(コピー)をAの自己破産申立書に添付しなければなりません。
これは、本来であれば、自己破産するのはAですからC名義の生命保険はAの資産とならないためAの自己破産手続きでは問題となりませんが、AがCの保険料を支払っているような場合には、Cの保険の解約返戻金はAのお金(資産)が流出して作られたと言うべきものであり、自己破産の手続きではAの資産として考えるべきものであるからです。
そのため、このように自分以外の人が契約者となっている保険であっても、自己破産する人が保険料を負担しているような場合は、その保険の保険証券や解約返戻金証明書についても自己破産の申立書に添付して裁判所に提出しなければならないことになります。