自己破産をするに至っては、自分の財産を勝手に処分することは禁じられています。
なぜなら、自分の財産は自己破産の申し立てが行われれば基本的に裁判所によって取り上げられて売却されたお金が債権者に分配されることになるからです。
債権者からしてみれば、お金を返してもらえないなら、可能な限りの財産を処分してそれを返済の一部に充当してほしいと思うのが通常ですから、その債権者の期待や利益を損なうようなことはしてはいけないことになっているのです。
そのため、自己破産申立書の陳述書には、「自分の財産又は自分の財産となるはずだったものを隠したり、名義変更したり、壊したり、債権者にとって不利益な処分をしたりしたことがあるか」ということを記載する欄があります。
法律的には「廉価処分」と言われますが、ここではこの「自分の財産又は自分の財産となるはずだったものを隠したり、名義変更したり、壊したり、債権者にとって不利益な処分をしたりしたことがあるか」という項目の記載方法について考えていくことにいたしましょう。
なお、自己破産申立書の作成方法についてはこちらの目次ページから必要な書類のページに移動してご確認をお願いします。
財産の不利益処分(廉価処分)とは
前述したとおり、「自分の財産又は自分の財産となるはずだったものを隠したり、名義変更したり、壊したり、債権者にとって不利益な処分をしたりすること」を廉価処分といいますが、廉価処分(財産の不利益処分)といってもピンとこない人も多いと思いますので、具体的な例を挙げて説明してみましょう。
例えば、クレジットカードでブランド物のバッグを購入し、その購入したバッグをネットオークションで売りさばいて換金するというのが挙げられます。
街中の看板や雑誌で「クレジットカードの現金化」という広告を目にしますが、これは明らかに「廉価処分(財産の不利益処分)」となります。
また、車を持っている人が自己破産する際に、「自己破産したら車を取り上げられるからお前の名義に変更しておいてくれ」といって家族や友人の名義に変更することも「廉価処分(財産の不利益処分)」となります。
このように、自分の財産や財産になる予定だったものを売却したり名義を変える行為は債権者の利益を害する行為となりますのですべて「廉価処分(財産の不利益処分)」として絶対にやってはいけないことになっています。
それなりの値段で売れば大丈夫か?
「廉価」処分や「不利益」処分と言っていますので、「その商品の価格に相当な値段で売れば大丈夫なんだろ?」と思われるかもしれませんが、そういう問題ではありません。
「現金」は「商品」よりも処分するのが容易(現金は使おうと思えばすぐに使えますが、商品の状態であるなら物々交換という手段は現代社会ではほぼ行われていないので処分することは容易ではない)ですから、商品を現金に換えるということは、それだけ財産の消滅を早めることになります。
そのため、裁判所からしてみれば、商品を現金に換えることだけでも財産を棄損する行為と判断されます。
また、その売却価格が妥当な値段かどうかは自己破産を申し立てる人ではなく裁判所(破産管財人)が判断するものです。
ですから、たとえ結果的にその売却価格が妥当な値段であったとしても、自己破産する人が自分の判断で自分の財産を勝手に売却することは認められないのです。
「財産の不利益処分」の欄の一般的な様式
自己破産の申立書は各裁判所によってその様式に若干の違いがありますが、ここでは東京地裁と大阪地裁で使用されている陳述書(報告書)の「廉価処分(財産の不利益処分)」の欄の様式を参考として挙げておきましょう。
≪東京地裁で使用されている陳述書の「廉価処分」の欄の様式≫
問2 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり、又は信用取引により商品を購入し著しく不利益な条件で処分してしまった、というようなことがありますか(破産法252条1項2号)。
□有 □無
① 内容 ア.高利借入(→次の②に記入) イ.換金行為(→次の③に記入) ウ.その他( )②高利(出資法違反)借入
(省略)③換金行為
品名 購入価格 購入時期 換金価格 換金時期 年 月 日 円 年 月 日 円
※東京地裁の申立書(陳述書)では、「著しく不利益な条件での債務負担」を②に、「廉価処分」を③に記載するようになっています。
なお、「著しく不利益な条件での債務負担」の欄の記載方法についてはこちらのページを参考にしてください。
陳述書の作成手順(17)不利益な条件での債務負担の記載方法
≪大阪地裁で使用されている報告書の「廉価処分」の欄の様式≫
2 廉価処分(信用取引によって商品を購入し著しく不利益な条件で処分したことの有無 破産法252条1項1号関係)
品名 購入時期 購入価格 処分時期 処分価格 年 月 日 円 年 月 日 年 月 日 円 年 月 日
≪福岡地裁で使用されている報告書の「廉価処分」の欄の様式≫
福岡地裁などでは、「財産の隠匿や棄損」と「クレジットカードの現金化」で記載欄が分けられている様式が使用されているようです。なお、この場合の陳述書の「廉価処分(財産の不利益処分)」の記載欄も挙げておくことにしましょう。
第3 免責申立てに関する陳述
1 あなたの財産又はあなたの財産となるはずだったものを、隠したり(名義変更を含む。)、壊したり、債権者にとって不利益な処分をしたりしたことがありますか。
□ない
□次のとおり(→その時期、内容及び理由を記載してください。)
年 月ころ 内容及び理由 2 クレジットやローンを組んで商品を購入して、ほとんど使わないうちに換金したことがありますか。
□ない
□次のとおり(→次の表を記載してください。)
品 名 購入時期 購入金額 換金時期 換金金額 年 月 日 円 年 月 日 円 年 月 日 円 年 月 日 円 年 月 日 円 年 月 日 円
「財産の不利益処分」の欄の具体的な記載例
例えば、平成25年4月20日に80万円で購入したプラダのバックを平成26年10月10日にインターネットオークションで30万円で売却し、平成26年1月初めごろに購入した150万円のロレックスの時計を同年5月ごろに友人に100万円で売却した場合の記載例は次のようになります。
品名 購入時期 購入価格 処分時期 処分価格 プラダのバッグ H25年4月20日 80万円 H26年10月10日 30万円 ロレックスの時計 H26年1月ごろ 150万円 H26年5月ごろ 100万円 ~