自己破産で生命保険の解約返戻金はどうなるの?

自己破産の申立をする人が生命保険に加入している場合、その加入している生命保険は自己破産の手続きでどのように扱われるのでしょうか?

生命保険は、掛け捨てのものを除いてほとんどの場合、解約すると「解約返戻金」というお金が払い戻されることになります。

そのため、その解約返戻金が自己破産の手続きで裁判所に取られてしまうのではないかと心配している人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、生命保険に加入している人が自己破産する場合、その解約返戻金はどのような取り扱いを受けるのかという点について考えてみることにいたしましょう。

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解約返戻金は「資産」として裁判所に取り上げられるのが原則

自己破産の手続きにおいては、生命保険の解約返戻金は、すべて「資産(財産)」と判断されることになります。

なぜなら、生命保険の解約返戻金は、その生命保険を解約すれば必ず払い戻しを受けることができるもので、その生命保険の契約者の固有の財産ということができるからです。

そして、自己破産の手続きで「資産(財産)」と判断されるものについては、基本的に裁判所から選任される破産管財人がその資産(財産)を回収してお金に換え、債権者に分配することになります。

そのため、生命保険に解約返戻金があるものについては、自己破産の申立を行うと、破産管財人がその生命保険を解約し、払い戻された解約返戻金を債権者に分配(配当)することになるのが基本的な取り扱いとなっているのです。

≫ 資産目録(説明書)の作成手順(9)生命保険等の欄の記載方法

 

解約返戻金が20万円を超えない場合には取り上げられない

もっとも、解約返戻金があればすべての生命保険が解約されるというわけではありません。

解約返戻金の金額が20万円を超えない場合は、金額が少額なことから自由財産(自己破産の申立人が自由に保有を認められる財産)として解約の対象としないというのが多くの裁判所の一般的な取り扱いとなっているからです。

自己破産をしても、その後の生活の再建にはある程度の資産は必要であり、生命保険の契約も存続させる必要がある場合も存在します。

そのため、多くの裁判所では、20万円を超えない解約返戻金は自己破産をしてもそのまま保有することを認める取り扱いをとっているのです。

 

他の資産(財産)と合計して50万円を超える場合は取り上げられる

前述したように、解約返戻金が20万円に満たないような解約返戻金は裁判所に取り上げられることはありません。

しかし、他の財産(資産)と合計して50万円を超えるような場合には、原則どおりその解約返戻金は裁判所(破産管財人)に取り上げられて債権者に分配(配当)されることになります。

たとえば、自己破産するAさんが解約返戻金が18万円ある生命保険を持っている場合、基本的にはその解約返戻金は自由財産となり裁判所(破産管財人)に取り上げられることはありません。

しかし、このAさんが生命保険の他に、査定額が15万円する自動車と、売却すれば10万円になる腕時計を所有しており、銀行の口座に10万円の預金があったとすると、この生命保険の解約返戻金は裁判所(破産管財人)に取り上げられて債権者に分配されることになります。

なぜなら、生命保険単体では資産価値が20万円を超えていないものの、自動車や腕時計、銀行預金と合計すれば50万円を超えることになるからです。

この場合注意が必要なのは、50万円を超える資産(財産)のうち、20万円を超える分だけが取り上げられるわけではないということです。

50万円を超える財産を所有している場合は、そのすべての財産が裁判所(破産管財人)に取り上げられて債権者に分配(配当)されることになりますのでご注意ください(この例でいえば、生命保険だけではなく、自動車・腕時計・銀行預金もすべて取り上げられることになります)。

 

裁判所に取り上げられたくない場合には「自由財産の拡張」の手続きが必要となる

前述したように、生命保険の解約返戻金が20万円を超えていたり他の財産と合計して50万円を超える場合には、その解約返戻金は裁判所に取り上げられて債権者に分配されることになります。

しかし、そのような場合でも、例外的に裁判所に取り上げられないようにする手続きも存在しています。

それは、「自由財産の拡張」という手続きです。

「自由財産」とは、生活の再建のために必要最低限の範囲内で保有が認められる財産のことをいいます。

この自由財産については、一般的な裁判所においては現金以外の財産については各20万の保有を認めることが多いのですが(※ただし、前述したように他の財産と合計して50万円を超えない範囲内で認められる)、その自由財産の範囲を通常認められる範囲以上に認めてもらうようにするというのが、「自由財産の拡張」の手続きです。

これが認めれられれば20万円を超える解約返戻金のある生命保険の保有を認められることもありますので、どうしても解約されたくない生命保険がある場合には利用してみるのもよいかもしれません。

もっとも、自由財産の拡張の手続きは非常に小難しい手続きですので、実際に利用する場合は自己破産を依頼する弁護士や司法書士に事情を説明して行ってもらうようにしましょう。

なお、自由財産の拡張についてはこちらのページも参考にしてください。

≫ 自由財産と自由財産の拡張制度とは

≫ 自由財産の拡張の方法 – 自由財産拡張申立書と上申書の記載例

 

自己破産の申立直前に解約して現金化するのはNG

なお、解約返戻金を裁判所に取り上げられるのを防ぐため、自己破産の申立直前に生命保険を解約して現金化する人がたまにいますが、これはするべきではありません。

自己破産の手続きでは、現金については最高で99万円まで自由財産として保有することが認められています。

しかし、自己破産の申立直前に解約して得た解約返戻金は「現金」ではなく「解約返戻金」とみなされますので、たとえ直前に解約して現金化したとしても裁判所の判断で取り上げられることになります。

なにより、申立直前に解約返戻金を受け取ってしまうと、債権者に分配するべき財産を不当に棄損したということになりかねませんので、絶対にするべきではありません。

≫ 自己破産直前に生命保険の解約返戻金を受取るのはNG?

 

20万円を超える場合は破産管財人が選任される

前述したように、生命保険の解約返戻金が20万円を超えるような場合や、他の財産と合計して50万円を超える場合には、その生命保険の解約返戻金は裁判所に取り上げられて債権者に分配されることになります。

ところで、この裁判所が取り上げて債権者に分配(配当)する手続きは、すべて裁判所から選任される破産管財人が行うことになります。

裁判所から選任される破産管財人は通常、裁判所の名簿に記載された弁護士から選ばれることになりますが、これら選任された破産管財人はボランティアではありませんのでその破産管財人の仕事に対する費用(報酬)が発生します。

この破産管財人の報酬(費用)は当然、自己破産の申立をする人が支払わなければいけませんので、もし仮に裁判所に取り上げられるような解約返戻金がある場合には、自己破産の費用とは別にその破産管財人の報酬(費用)についても裁判所に納付しなければならないことになります。

破産管財人の報酬(費用)は、その案件にもよって異なりますが、一般的には20万円が相場となっています。

そのため、もしも裁判所に取り上げられるような生命保険の解約返戻金があるという場合には、自己破産の費用が通常よりも20万円程度高くなると考えておいた方がよいでしょう。

 

なお、破産管財人の費用や破産管財人が選任された場合の手続き上の問題点などについてはこちらのページでもレポートしていますので、気になる方はそちらも参考にしてください。

≫ 破産管財人が選任されると何がどうなるの?

 


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