しかし最近は、従来では破産管財人が選任されなかったような事案についても破産管財人を選任する取り扱いを行う裁判所が増えてきましたし(一説には増えすぎた弁護士の仕事を増やす必要があるため、昔は破産管財人を選任しなかった案件でも破産管財人を選任するようになっているといわれていますが・・・)、自己破産の申し立て直前に任意売却が行われた場合には裁判所がその任意売却が適正に行われたことをチェックするため破産管財人を選任することも多いと思われます。
もし仮に、自己破産の申立前に任意売却をして不動産を処分したにもかかわらず裁判所から破産管財人が選任されてしまうことになった場合には、任意売却した意味が全くないだけでなく任意売却に費やした費用や労力が無駄になってしまいますし、破産管財人から任意売却に不正な点がなかったかなどをチェックされるという大きなリスクまで抱えてしまうことになるでしょう。
そのため、やはり自己破産で問題になるリスクを極力少なくし、手続きをスムーズに進めたい場合には、自己破産の申立前ではなく申立後に破産管財人の主導のもとに任意売却をするのが一番安全ではないかと思います。
※注1
住宅ローンの残額が任意売却する際の売却価格より少ない場合は、その差額が住宅ローン会社以外の債権者に分配(配当)されることになり、その債権者への配当は必ず破産管財人がしなければないことから、仮に自己破産の申立前に任意売却を行ったとしても、その後に必ず破産管財人が選任されるということになります。
このように、住宅ローンの残額が任意売却する際の売却価格より少ない場合(※オーバーローンではない場合)には、破産管財人が必ず選任されるので、自己破産の申立前に任意売却する必要性はないということが言えますから、このような場合には自己破産の申立前に任意売却をするべきではなく、破産管財人に引き継ぐのが正しい方法となります。
(※ただし、住宅ローンの残額が任意売却する際の売却価格より少ない場合であっても、その差額が20万円を超えない場合には破産管財人が選任されないこともありますので、その場合には自己破産の申立前に任意売却するメリットもあるかもしれません)
なぜ「任意売却をしませんか?」という広告が氾濫しているか?
ところで、ネット上で「任意売却をしましょう」とか「自己破産を行う前に任意売却を検討しましょう」などという記事や広告を頻繁に見かけますが、なぜこのように「任意売却」の言葉をやたら目にするかおわかりでしょうか?
答えは簡単、それで仲介手数料や相談料を儲けられるからです。
自己破産を予定している人が弁護士や司法書士の事務所に相談に行った際に、自己破産の手続きとは別に任意売却の手続きについても依頼することになれば、その依頼を受けた弁護士や司法書士は、自己破産の費用とは別に任意売却の相談料や手数料、名義変更の登記費用などを受け取ることができます。
依頼人が自己破産の申立前に任意売却をすれば自己破産の手続きだけを処理するよりも多く利益を出すことができるから、弁護士や司法書士は自己破産の「申立前」の任意売却を積極的に勧めるのです。
これは不動産仲介業者についても同様です。
不動産仲介業者は自己破産の申立後に破産管財人が任意売却を行う場合でもその家や土地の任意売却を仲介することになりますが、自己破産の申立前に任意売却が行われるか、申し立ての後に行われるかでその受け取る仲介手数料は違ってきます。
自己破産の申立前に任意売却を行う場合には、その手続きに裁判所は関与しませんから、仲介手数料についてもそれなりにある程度上乗せして取ることが可能です(もちろんボッタクリになるほどの高額の手数料を取ると問題になるので、常識の範囲内の金額ですが・・・)。
しかし、自己破産の申立後に任意売却が行われる場合には、破産管財人や裁判所の認める手数料しかとることができませんので、申立の前に任意売却が行われる場合と比較すれば、それほど多くの仲介手数料は取ることができません。
このような事情があるため、ネット上には「任意売却やりませんか?」というような広告や記事が氾濫する状態になっているのです。
悪質業者に騙されないよう注意が必要
もちろん、任意売却は自己破産の前に行うことも認められていますので、すべての案件で申立の前に行うことを否定するものではありません。
しかし、自己破産の申立前に行われる任意売却にはそれなりのリスクが伴うということは、自己破産をするうえで知っておいたほうが良いことなのではないかと思います。
ネット上で任意売却の広告を行っている業者のうちには、少なからず高額な仲介手数料や費用などを請求する悪徳不動産業者や、それらと提携している悪徳弁護士・悪徳司法書士もいると思いますので、仮に自己破産の申立前に任意売却をする場合であっても、そのような悪質業者に引っかからないように十分注意することが必要でしょう。