これは、保険の解約返戻金を隠すため、自己破産の直前に保険を解約して解約返戻金を受け取ってしまうという不正行為を防止するためです。
東京地裁では申立前2年間の、福岡地裁では申立前1年間に解約または失効した保険については全て記載しなければならないとなっていますのでご注意ください。
なお、自己破産の申立直前に生命保険を解約して解約返戻金を受け取ることは大きなリスクがあるので注意が必要です。
解約返戻金がない保険についても記載する
たとえ解約返戻金がない場合であっても、保険については全て記載しなければなりません。
解約返戻金がない場合は、保険会社から「解約返戻金がない」という証明書を発行してもらい、申立書に添付する必要があります。
生命保険などの「契約者貸付」を利用している場合
生命保険などによっては、解約返戻金の範囲内で生命保険会社からお金を借りられるシステムになっているものがあります。
例えば、生命保険を20年ほど掛けていて解約返戻金が200万円ほどある場合に、200万円の範囲内なら生命保険会社から貸し付けを受けられるというような契約になっている保険があり、その貸付のことが「契約者貸付」と呼ばれています。
このような契約者貸付を受けている場合は、仮にその時点で保険を解約したとしても、解約返戻金の額から契約者貸付によって借り入れている金額が差し引かれた金額が実際に受け取る解約返戻金となります。
そのため、契約者貸付を受けている場合は、その「解約返戻金から契約者貸付で借り入れている金額を差し引いた金額」を、資産説明書(資産目録)の「保険」の欄の「解約返戻金額」の欄に記載しなければなりません。
また、このような場合には、裁判所に契約者貸付をしていることを報告するために、余白や付箋にその金額が「解約返戻金から契約者貸付で借り入れている金額を差し引いた金額」であることを書いておいた方が良いでしょう(上申書を別に作成して説明しても良いと思います※記載例は後述しています)。
≪ワンポイントアドバイス≫
契約者貸付は保険会社から「お金」を「借りること」になりますから、保険会社を債権者一覧表の債権者として挙げておかなければならないかという疑問が生じます。
しかし、保険会社の契約者貸付は、「貸付」と言っていても実際は解約返戻金の前払いという性質のものですので、破産手続きにおける「債権者」にはなりません。
そのため、保険会社から契約者貸付としてお金を借りている場合であっても、債権者一覧表に債権者として挙げる必要はありません。
資産説明書(目録)の「保険」の欄の様式
自己破産の申立書の様式は各裁判所によって異なっていますので、資産説明書(資産目録・財産目録)の「保険」の欄も裁判所によってその様式に若干の違いがあります。
ここでは、東京地裁と福岡地裁で使用されている資産説明書(資産目録)の「保険」の欄を参考として挙げておきましょう。
≪東京地裁で使用されている資産目録の「保険」の欄≫
8 保険(生命保険、傷害保険、火災保険、自動車保険など)
*申立人が契約者で、未解約のもの及び過去2年以内に失効したものを記載します(出損者が債務者か否かを問いません)。
*源泉徴収票、確定申告書等に生命保険の控除がある場合や、家計や口座から保険料の支出をしている場合は調査が必要です。解約して費消していた場合には「過去2年間に処分した財産」に記載することになります。
*保険証券及び解約返戻金計算書の各写し、失効した場合にはその証明書(いずれも保険会社が作成します)を提出します。
保険会社 証券番号 解約返戻金 円 円
≪福岡地裁で使用されている資産説明書の「保険」の欄≫
8(1)保険(生命、年金、学資、傷害、火災、自動車保険等)
□ない
□次のとおり(添付書類:保険証券の写し、解約返戻金見込額証明書等)
□書き切れないので別紙のとおり追加します。
保険会社 保険の
種類証券番号 契約日 毎月の
掛け金解約返戻金
見込額年
月円 円 年
月円 円
資産説明書(目録)の「保険」の欄の具体的な記載方法
例えば、A生命の生命保険(証券番号123456)に20万円の、B生命の生命保険(証券番号777777)に50万円の解約返戻金があり、B生命から28万円の契約者貸し付けを受けている場合の記載例は次のようになります。
保険会社名 証券番号 解約返戻金額 A生命保険株式会社 123456 20万円 B生命保険相互会社 777777 22万円※上申有 ~
東京地裁破産係 御中 上申書
申立人 破産太郎 ㊞
B生命保険相互会社の解約返戻金について
資産目録の「保険」の項目において、B生命保険相互会社の解約返戻金を金22万円と記載しておりますが、これは同保険会社から金28万円の契約者貸し付けを受けているためです。
同社からの解約返戻金は金50万円ございますが、生活費の不足から、平成26年4月に金10万円、同年6月に金10万円、同年10月に金8万円を契約者貸付として借り入れておりますので、解約返戻金の金50万円から契約者貸し付けとして受領した金額の合計額28万円を差し引いた金額(金22万円)を解約返戻金として記載しております。
なお、この借り入れた金28万円については、全て家賃や光熱費、生活費の不足分に充当したため手元には残っておりません。
以上