ネットなどの書き込みを見ていると、弁護士や司法書士は「闇金に関する依頼を受けたがらない」と思われているようです。
「法律で正義を実現するのが仕事のくせに闇金の処理を拒否するなんてけしからん!」といった感じで弁護士や司法書士を非難する声は意外に多く耳にすることがあるのではないでしょうか。
しかし、司法書士として10年ほど事件処理をして実際に現場を見てきた私からすると、「闇金事件を受任したがらない」ような弁護士や司法書士がそれほど多くいるようには思えません。
もちろん、弁護士や司法書士も人間ですので中には「闇金を受けたくない」と思っている人がいるのも事実です。
しかし、一部にそういった弁護士や司法書士がいるからと言って、他のすべての弁護士や司法書士も同様に判断されるという現状はうなずけないものがあります。
では、実際のところ、弁護士や司法書士は「闇金に関する依頼を受けたがらない」ものなのでしょうか?
「弁護士や司法書士は闇金の事件を受けたがらない」説が流布してしまった理由
弁護士や司法書士は「闇金に関する依頼を受けたがらない」のか、と言うことを考える前に、「弁護士や司法書士は闇金の事件を受けたがらない」といった風潮が広まってしまった原因を考えてみることにしましょう。
この点、なぜ「弁護士や司法書士は闇金の事件を受けたがらない」という”噂”が広まってしまっているかと言うと、実際にごく一部の弁護士や司法書士事務所が闇金に関する案件を積極的に拒否していた過去があるからです。
皆さんご存知のことと思われますが、消費者金融に対する利息の払い過ぎ、いわゆる「過払い金」の返還請求が盛んになった10数年前、弁護士や司法書士の業界では「過払いバブル」と揶揄される時代が数年間続きました。
過払い金の返還請求は、素人がやると意外と難しい面もあるのですが、弁護士や司法書士にしてみればごく簡単にマニュアル化して処理できましたので、当時の弁護士や司法書士は利益率の高い過払い金返還請求の案件を積極的に受任していたのです。
「闇金を受けたがらない弁護士・司法書士」がクローズアップされたのもちょうどその頃ではないかと思います。
もちろん、「闇金の事件を受けたがらない」ような弁護士や司法書士はその「過払いバブル」の前から存在していたのでしょうが、「過払いバブル」が発生する以前は多重債務問題を処理する弁護士や司法書士自体がそれほど多くいませんでしたので「闇金を受けたがらない弁護士・司法書士」がいたとしてもそれほど目立つこともなく、そういった弁護士や司法書士がいてもさほど問題にはならなかったのでしょう(※司法書士に関しては「過払いバブル」が発生する以前はそもそも簡裁代理権が与えられておらず債務整理案件は自己破産申立書の作成ぐらいしかできませんでしたので少々事情が異なりますが…)。
しかし、「過払いバブル」が発生した後は、事情が異なります。
「過払いバブル」が発生した後は、利益率の高い過払い金請求の案件だけを積極的に受任して、過払い案件と比較して利益率の低い自己破産や個人再生の案件を受けたがらない弁護士や司法書士が出現したことから、従来から多重債務問題を積極的に処理してきた弁護士や司法書士の間で問題にされるようになったからです。
その中でも特に問題にされたのが、過払い金の案件だけを受任して面倒なうえに利益率の低い闇金の案件を受任しないような弁護士や司法書士です。
「闇金に関するトラブル」は、闇金業者の脅しに怯えて精神的に病んでしまう多重債務者の人も多いため、多重債務問題の案件の中では優先的に受任してトラブルを解決してあげなければならない案件と言えます。
にもかかわらず、利益率の高い過払い金返還請求の案件だけを受任し、闇金の案件を受任することを拒否する弁護士や司法書士を放置したのでは弁護士や司法書士の存在意義が疑われますから、弁護士や司法書士の内部でも問題とされたのです。
当然、インターネットの発達した現代ではそのような業界内部の情報が広がるのは早いですから、「闇金を受けたがらない弁護士や司法書士がいる」という情報もインターネット上で広がることになります。
そうして、現在に至るまで「闇金を受けたがらない弁護士や司法書士がいる」という情報がネット上を回遊することになり、それがいつしか「弁護士や司法書士は闇金事件を受任したがらない」という文言になって広がっていったのでしょう。
「過払い金専門」の弁護士や司法書士の中に「闇金は受けない方針」にしている事務所があったから、一般の人が誤解しているだけ
「弁護士や司法書士は闇金事件を受任したがらない」といった風潮が一般に広がってしまった原因のもう一つは、「過払い金専門」に事件を受任している弁護士や司法書士事務所の一部において「闇金の依頼を受けない」方針にしていた事務所があったことも挙げられます。
先ほども述べたように、10年ほど前から弁護士や司法書士の間では「過払いバブル」が発生したわけですが、その「過払いバブル」で業績を拡大させるには「過払い金返還請求」の依頼だけを大量に受任してマニュアル化した手順で効率よく処理することが求められます。
一方、闇金に関するトラブルは、その性質上マニュアル化して効率よく処理することはできません。何をやっても手を引かない闇金は一定数存在していますから、そういった闇金の依頼を受けた場合は闇金側が諦めるまで毅然とした態度で闇金の要求を拒み続けるか、それとも闇金の嫌がらせに依頼人本人が音を上げて闇金の要求する金銭を払って手打ちにするよう求めてくるか、あるいはその闇金が警察に逮捕されるまで延々と事件処理が終わらないからです。
そうすると、闇金トラブルのようにマニュアル化して効率よく処理のできないような借金問題は「過払い金返還請求で利益を上げたい」と考える弁護士や司法書士事務所にとっては、業務の効率化を妨げる邪魔な業務と言う位置づけにされてしまいます。
そういった理由から、「過払い金専門」に事件を受任している弁護士や司法書士事務所の一部で「闇金事件は受任しない」という方針を取る事務所が現れて来たわけです。
しかし、ここで問題になるのは、そういった「闇金を受任しない方針にしている事務所」がメディアで広く事務所の宣伝をしている場合です。
なぜなら、弁護士や司法書士事務所はその専門性から一般の消費者にはなじみのない部類の職種にあたるため、一般の消費者からすれば広告などメディアで目にする弁護士や司法書士事務所によって一般的な弁護士や司法書士事務所のイメージが形作られてしまうのは避けられないからです。
テレビやラジオで大々的に広告を展開する弁護士や司法書士事務所は、その高額な広告費を負担することができる大手の事務所に限られるわけですから、そのような広告を打つことができるのは利益率の高い「過払い金請求を専門的に扱っている事務所」にある程度限られることになります。
その大々的に広告を展開しているような「過払い金請求を専門的に扱っている事務所」が「闇金事件を受任しない」方針をとっていたとなると、当然その広告によってメディアに取り上げられる事務所が一般の消費者には「弁護士や司法書士事務所の一般的なイメージ」として定着していくことになります。
そうなると、仮にそのメディアに登場する事務所が「闇金を受任しない事務所」であった場合には、一般の消費者には「弁護士や司法書士は闇金を受けたがらない」というイメージが定着していくことになります。
もちろん、「闇金を受けない」方針にしている弁護士や司法書士の事務所が「うちの事務所では闇金は受任しませんよ!」などとわざわざ広告しているわけではないのですが、メディアに登場するような事務所がネット上などで批判される際に「あそこの事務所は闇金を受任せずに過払い金請求だけを受任してボロ儲けしている」などと揶揄されると、一般の消費者にはその事務所だけでなく、弁護士や司法書士の事務所のすべてが「闇金を受任しない」というイメージが定着していくわけです。
闇金を受けたがらない弁護士や司法書士はごく一部
以上のように、弁護士や司法書士の中には「闇金を受けたがらない」弁護士や司法書士がいるのも事実ですが、それはごく一部にすぎません。
実際、私が司法書士をしていた時も闇金トラブルの依頼が来れば断ることはありませんでしたし、むしろ自分の事務所のホームページでは闇金事件の処理手順についてある程度詳細に解説して闇金トラブルに悩む依頼人が相談しやすいようにしていたぐらいです。
他の弁護士や司法書士もおそらく同様で、「闇金を受任する」ような事務所は腐るほどあるのが現実でしょう。
嘘だと思うのであれば、最寄りの弁護士会や司法書士会の管理している相談センターに電話をして「闇金トラブルの依頼を受けてくれる弁護士(司法書士)を紹介していただきたいのですが」と聞いてみれば良いと思います。
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債務整理を扱っている事務所であれば闇金案件も扱うのが普通ですから、闇金のトラブルで悩んでいる人は「弁護士や司法書士は闇金を受けてくれない」などとあきらめたりせずに、早めに弁護士や司法書士に相談することが必要と言えるでしょう。