養育費や扶養料を支払っている人が自己破産する場合の注意点

養育費や扶養料を支払っている人が自己破産をする場合には、その養育費や扶養料についても自己破産の申立書に記載しなければなりません。

これは、養育費や扶養料の支払いも自己破産に至る原因となる場合があるため、裁判所が自己破産する人の状況を把握する際の一つの判断材料となるためです。

そこで、ここでは養育費や扶養料を支払っている人が自己破産の申し立てを行う場合の注意点などを考えてみることにいたしましょう。

なお、養育費や扶養料を「受け取っている」場合の注意点は『養育費や扶養料を受け取っている人が自己破産する場合の注意点』のページに記載しています。

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「養育費」と「扶養料」の意味はどう違う?

「養育費」と「扶養料」は同じような概念ですが、その意味合いが少し異なりますので、ここで少しだけ説明しておきましょう。

「養育費」とは?

まず、養育費とは、大まかに言えば「子を養育しない一方の親が、子を養育しているもう一方の親に支払う、子が成人するまでに必要な費用」のことをいいます。

例えば、AとBの夫婦にCという未成年の子供がいる場合を想定してください。

この事例で、AとBが離婚することになった場合は、AとBのどちらがCを大人になるまで育てるか(どちらがCを養育するか)を決めなければなりません。

そして、仮に妻Bが親権を取得し、BがCを育てるということに決まった場合であっても、それはCを育てるのがBというだけであって、Cが大人になるまでに必要な費用はAとBがそれぞれ負担しなければなりません。

これは、AとBが離婚すればAとBの間の夫婦関係(家族関係)は無くなりますが、AとCまたはBとCの間の親子関係(家族関係)はAとBが離婚した後も存続し続けるからです。

AとC、BとC間の親子関係は存続しますから、AはCの養育費を負担しなければなりませんし、BもCの養育費を負担しなければなりません。

そのため、BがCを養育すると取り決めた場合には、AはCの養育費のうちAが負担しなければならない部分をCの養育者であるBに対して支払わなければならないことになるのです。

このように、「子(C)を養育しない一方の親(A)が、子を養育しているもう一方の親(B)に支払う、子(c)が成人するまでに必要な費用」のことを「養育費」といいます。

「扶養料」とは?

「扶養料」は、「親族関係に基づいて具体的に扶養義務を負う者が、扶養の方法として要扶養者に給付する金銭その他の生活資料(有斐閣・法律学小辞典第3版・金子宏/新藤孝司/平井宣雄・1014頁より引用)」のことをいいます。

例えば、前述したAとBの夫婦にCという未成年の子供がいる場合を想定しましょう。

この事例では、Cが自立するまでに必要な生活費などの費用をAとBが負担しなければなりませんから、子供であるCはAとBに対して「大人になるまでの生活費を支払え」という権利を持つことになり、親であるAとBは、Cに対してCが大人になるまでの費用を支払わなければなりません。

このように、「扶養される側(被扶養者である子・C)が、扶養する側(扶養者である親・AおよびB)から支払ってもらう、成人するまでに必要な生活費など」のことを「扶養料」といいます。

ここでは親が未成年の子に対して支払うお金を扶養料の例として取り上げて説明していますが、夫婦間や自分の親、兄弟など扶養義務がある人に支払うお金も「扶養料」といいます。

 

「養育費」と「扶養料」の違い

以上の説明で理解してもらえたでしょうか?

親子関係で例えると「子が大人になるまでの生活費等」という意味では「養育費」も「扶養料」も同じですが、「養育費」が「一方の親がもう一方の親に支払うお金」であるのに対して、「扶養料」が「親が子に支払うお金」であるという点が異なっています。

 

「養育費」や「扶養料」を支払うべき相手方は、自己破産における「債権者」となるのか?

「養育費」と「扶養料」の違いについては上記で説明したとおりですが、自己破産の手続きにおいては「養育費」や「扶養料」を支払う相手方は「債権者」となるのでしょうか?

「養育費」も「扶養料」も「支払わなければならないお金」という意味では消費者金融や銀行から借りた借金と何ら変わりはありません。

そのため、「養育費」や「扶養料」の支払いをする相手を「債権者」として自己破産の申立書に記載しなければならないかということが問題になります。

この点、「養育費」や「扶養料」を受け取る側にしてみれば、「養育費」の場合は「養育費請求権」、「扶養料」の場合は「扶養料請求権」という「債権」を有しており、「養育費」や「扶養料」支払う側にしてみれば、「養育費」や「扶養料」という「債務」を負担していることになりますから、両者の間に債権債務関係が生じていることになります。

そのため、自己破産の申し立てをする人が「養育費」や「扶養料」を支払わなければならない立場にある場合には、基本的に自己破産申立書の債権者一覧表(債権者目録)に記載しなければならないことになります。

 

「養育費」や「扶養料」は自己破産で免責されるか?

では、「養育費」や「扶養料」を支払っている人が自己破産の申し立てをすると、消費者金融や銀行などに対する借金と同じように、「養育費」や「扶養料」の支払いについても免除(免責)されるのでしょうか。

「養育費」や「扶養料」についても自己破産による免責(借金の支払いが免除されること)の対象となるとすれば、「養育費」や「扶養料」を受け取る側(たとえば未成年の子など)は生活費が受け取れなくなることから生命の危機にさらされる可能性もあるため問題となります。

この点、破産法という法律によれば、「養育費」や「扶養料」といったお金については、自己破産が認められたとしてもその支払いは免除されないことと規定されています(破産法253条)。

そのため、たとえ自己破産が認められ、消費者金融や銀行から借りていたお金を返済することが免除された場合であっても、養育費や扶養料の支払いが免除されることはなく、養育費や扶養料は自己破産後も従来どおり支払っていかなければなりませんし、滞納している養育費や扶養料がある場合にはその滞納分についても支払わなければなりません。

 

「養育費」や「扶養料」を債権者一覧表(債権者目録)に記載する意味

このように、「養育費」や「扶養料」はたとえ自己破産が認められたとしてもその支払いが免除されることはありません。

しかし、前述したように、「養育費」や「扶養料」であっても、基本的には債権者一覧表(債権者目録)に「債権者」として記載することが必要です。

では、なぜ自己破産によっても免責(免除)されることがない「養育費」や「扶養料」を債権者一覧表(債権者目録)に記載しなければならないのでしょうか。

債権者一覧表(債権者目録)に記載しなかった(または記載し忘れた)債権者については免責の対象とはなりませんから、免責されない「養育費」や「扶養料」を記載しても意味がないのではないか、債権者一覧表(債権者目録)に記載する意味がないのではないかということが問題となります。

この点、裁判所は自己破産の申し立てをした人を免責(借金の免除)にするのが妥当か否かを判断するために、全ての負債状況を考慮することになっています。

「養育費」や「扶養料」は、免責(借金の免除)の対象とはなりませんが、負債が増大した一因として、「養育費」や「扶養料」の支払いがどのように自己破産する人の生活に影響を与えたのかということが調査されるのです。

そのため、たとえ自己破産の免責によって免除されることのない「養育費」や「扶養料」であったとしても、裁判所(裁判官や破産管財人)の判断材料とするために、自己破産の申立書に「負債」として記載しなければなりませんし、「養育費」や「扶養料」を支払うべき相手方を「債権者」として挙げておかなければならないのです。

 

「養育費」や「扶養料」の債権者一覧表(債権者目録)への具体的な記載例

例えば、離婚した元妻である場津市子に、市子が親権を取得した子の養育費として離婚した平成26年5月31日以降毎月5万円を支払っており、成人するまでの養育費の残額合計が600万円となる場合の債権者一覧表(債権者目録)の記載例は次のようになります。

番号債権者名住所借入・
購入時期
債務額使途
場津市子***H26/5/31~600万円□生活費
☑その他(養育費)

 

「養育費」や「扶養料」を記載する欄が独立して設けられている場合の記載方法

福岡地裁などで使用されている自己破産の申立書では、資産説明書(資産目録)に「養育費」や「扶養料」を記載する欄が独立した項目として設けられています。

このような様式の申立書を使用している裁判所では、場合によっては「養育費」や「扶養料」に関してはその資産説明書(資産目録)に設けられた「養育費や扶養料を記載する欄」に記載しすればよく、債権者一覧表(債権者目録)には記載しなくてもよいという取り扱いがなされている場合もあります。

そのため、「養育費」や「扶養料」を記載する欄が独立して設けられている申立書を使用する場合には、債権者一覧表(債権者目録)にも「債権者」として記載することが必要か、事前に裁判所に確認を取った方が良いかもしれません。

なお、「養育費」や「扶養料」を記載する欄が独立して設けられている申立書の記載方法などについてはこちらのページを参考にしてください。

資産目録の作成手順(18)養育費・慰謝料等の記載方法

 

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