自己破産で自分の預金口座を他人に譲り渡している場合の対処法

例えば、ヤミ金Xからお金を借りたAさんがお金を返せなかったためヤミ金XにZ銀行の預金口座の通帳とキャッシュカードを渡した場合を想定してください。

この場合に、ヤミ金はこのAさんの預金口座をどうするかというと、まず間違いなく自分たちがお金を貸している顧客から返済金を受け取る際の入金口座として利用するでしょう。

ヤミ金Xの顧客がA以外にP・Q・R・S・T・Uの6人がいたとすると、ヤミ金XはP・Q・R・S・T・Uに対し、「返済金をA名義の口座に入金しろ」と指定してお金を回収するわけです。

P・Q・R・S・T・Uはヤミ金Xの指示どおり返済金をAの口座に振り込んで、Aの口座からヤミ金Xがお金を引き出すという手順を踏むことになります。

ここで問題となるのが、仮にP・Q・R・S・T・Uがヤミ金Xから支払ったお金をとり返そうとする場合です。

P・Q・R・S・T・Uがヤミ金Xからお金をとり返す方法としては、まずヤミ金Xを被告としてヤミ金Xに対して裁判を起こす方法があります。

法外な利息を受け取ったのはヤミ金Xなのですから、当然にヤミ金Xを被告として裁判を起こすのが通常の訴訟のやり方です。

しかし、ヤミ金は所在がしれないことが多いですから、ヤミ金Xを被告として裁判を起こすのは現実的にはかなり難しいです。

このような時の訴訟のテクニックとして、お金を振り込んだ預金口座の名義人を被告として裁判を起こす方法があります。

ヤミ金に指定された口座に振り込んだヤミ金被害者は、その預金口座に振り込みを行っていますが、そもそもその預金口座の名義人はヤミ金被害者からお金を振り込まれる権利を有していません。

そのため、ヤミ金の指定する預金口座にお金を振り込んだヤミ金被害者はその預金口座の名義人に対して「あなたは私からお金を振り込まれる権利はないのだから、私が振り込んだお金を返してください」という権利が発生します。

前述の例で例えると、P・Q・R・S・T・Uはヤミ金Xの指定するA名義の口座にお金を振り込んでいますが、P・Q・R・S・T・UはAに対してお金を支払わなければならない理由がないのですから、P・Q・R・S・T・Uは口座の名義人Aに対して、「私が振り込んだお金を返せ」という裁判を起こすことが可能です。

Aさんは預金口座をXに譲り渡しているためP・Q・R・S・T・Uから1円もお金を受け取っていませんが、訴訟のテクニックとしてP・Q・R・S・T・UがAさんにお金を請求することが可能なのです(そしてこの場合、Aさんが勝訴する可能性は極めて低く、AさんはP・Q・R・S・T・Uにお金を支払わなければならないでしょう)。

このように、預金口座をヤミ金Xに譲り渡したAさんは、ヤミ金Xの顧客であるP・Q・R・S・T・Uから、お金を返せと請求される状態になっているのです。

言い換えれば、ヤミ金に口座を譲り渡したAはヤミ金の指示に従ってA名義の口座にお金を振り込んだP・Q・R・S・T・Uに対して(潜在的な)債務を追っているということになりますから、P・Q・R・S・T・UはAの(潜在的な)債権者ということになります。

そのため、もし仮にAが自己破産する際に、P・Q・R・S・T・UというAの(潜在的な)債権者を「債権者」として債権者一覧表に記載していないとすると、P・Q・R・S・T・Uに対する債務は免責(返済の免除が受けられること)の対象となりませんから自己破産後にP・Q・R・S・T・Uからお金を返せと言われたら返さないといけなくなってしまいます。

このような事情があるため、自分の預金口座を他人に譲り渡している場合は、その口座に入金している人を債権者として債権者一覧表に記載しておくべきと思われます。

 

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他人に譲り渡した預金口座に誰が入金しているか確認する方法

債権者一覧表に、譲り渡した預金口座に入金した人を債権者として記載すると言っても、通帳は譲り渡しているのですから、いったい誰が自分の口座に入金しているかは分かりません。

そのため、債権者として記載する名前やいくら振り込まれているかもわからないため、債権者一覧表にどのように記載すればわからないでしょう。

このような場合は、その口座の銀行の窓口で、入出金履歴を発行してもらいましょう。

預金口座の入出金履歴は通帳のに記載されているものが一覧表の形でプリントされるもので、これがあれば自分が他人に譲渡した預金口座に「いつ」・「誰が」・「何円」振り込んだかが分かります。

なお、銀行の窓口で発行してもらう入出金履歴は無料のところも多いですが、銀行によっては1枚100~200円の手数料がとられますのでご注意ください。

 

上申書に詳細を記載して提出する

上記のように、他人に預金口座を譲り渡しているような場合は、債権者一覧表にその口座に入金している人を債権者として記載しておく方が安全です。

しかし、ただ単に債権者として記載するだけでは、裁判所(裁判官)にもよく理解できない可能性もあります。

そのため、上記のように他人に譲り渡した預金口座に入金した人を債権者として債権者一覧表に挙げる場合には、上申書を別途作成して、「なぜその口座に入金した人を債権者として記載するのかを説明しておく必要があるでしょう。

 

債権者一覧表・資産目録への具体的な記載例

例えば、AさんがZ銀行Z駅前支店で開設した自分の預金通帳とキャッシュカードをヤミ金Xに渡し、ヤミ金Xの顧客であるPさんが平成26年5月5日に10万円を、Qさんが平成26年7月7日に15万円をヤミ金Xに指示されるままAさんの預金口座に振り込み、ヤミ金XがAさんの口座から25万円を引き出している(預金口座の残高は246円)というような場合の記載例は次のようになります。

≪債権者一覧表≫

番号債権者名住所借入・
購入等の日
債務額使途(省略)
(省略)(省略)(省略)(省略)(省略)(省略)(省略)
(省略)不明H26/5/50円☑その他(上申書あり)(省略)
(省略)不明H26/7/70円☑その他(上申書あり)(省略)

※PやQは銀行で発行されてもらう入出金履歴に表示される情報しかわからないため、住所は「不明」としておけば問題ありません。

※Pからは10万円、Qからは15万円の入金がありますので、Pに対しては10万円、Qに対しては15万円の負債を抱えていることになりますが、破産申立時点ではPおよびQから返還請求がなされているわけではないため、その負債は顕在化していないといえますので、自己破産申して多時点では債務額を「0円」と記載して問題ないと思います。

※「使途」の欄には「□その他」に☑を入れて、「(上申書あり)」などと記載して上申書で別途説明していることを明らかにしておきます。

≪資産目録の「預金・貯金」の欄の記載例≫

金融機関・支店名口座の種類口座番号申立時の残額
Z銀行Z駅前支店普通****246円
(省略)(省略)(省略)(省略)

 

≪上申書の記載例≫

○地方裁判所 御中平成〇年〇月○日

上申書

申立人 A ㊞

PおよびQを債権者として記載している件について

債権者一覧表にPおよびQを債権者として記載しておりますが、これは将来的にP及びQから不当利得の返還請求を受ける可能性があるためです。

申立人である私は平成〇年〇月ごろ、当時取引をしていたヤミ金融のXから「お金を返せないなら預金通帳とキャッシュカードを渡せ」と脅されて、ヤミ金のXに対してZ銀行Z駅前支店で開設した預金口座の通帳とキャッシュカードを譲り渡しました。

その後、自己破産の申立を行うにあたって当該預金口座の入出金履歴を確認したところ、平成26年5月5日にPという人物から金10万円が、同年7月7日にQという人物から金15万円が振り込まれていることが判明いたしました。

このPおよびQはヤミ金Xの顧客であるものと推定され、ヤミ金Xから借りたお金の返済として私名義のZ銀行の口座が入金口座として使用されたものと思われます。

入金された金員はヤミ金のXが全て引き出しているため私は何らの経済的利益は受けていませんが、PおよびQがお金を振り込んでいるのは私の名義となっている預金口座ですから、場合によってはPおよびQから私に対して、預金口座に振り込んだ金額相当額の不当利得返還請求が行われる可能性があります。

そのため、債権者一覧表にはPおよびQを債権者と記載したしだいでございます。

なお、破産申立時点の現状では、PおよびQから不当利得返還請求がなされているわけではなく、債務が顕在化しているとは言えませんでしたので、債権額の欄には0円と記載しております。

以上

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