自己破産の申立書は各裁判所によってその様式に若干の違いがありますが、申立書によっては「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担」したことを記載する欄が設けられているものがあります。
そこで、ここでは「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」の記載方法について考えていくことにいたしましょう。
なお、自己破産申立書の作成方法についてはこちらの目次ページから必要な書類のページに移動してご確認をお願いします。
「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」の概要
前述したとおり、自己破産申立書の様式によっては、陳述書に「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」が設けられている場合があります。
東京地裁で使用されている申立書などが代表的ですが、その様式は次のような記載欄になっています。
問2 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり、又は信用取引により商品を購入し著しく不利益な条件で処分してしまった、というようなことがありますか(破産法252条1項2号)。
□有 □無
①内容 ア.高利借入 イ.換金行為 ウ.その他( )
②高利(出資法違反)借入
借入先 借入時期 借入金額 約定利率 ~ ~ ③換金行為
品名 購入金額 購入時期 換金価格 換金時期 ~ ~
そこで、このページではこの様式例の前段の「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」の欄(②の「高利借入」の欄)の記載方法について解説していくことにいたします。
なお、上記の様式のうち、後段の「信用取引により商品を購入し著しく不利益な条件で処分してしまった」ことを記載する欄(③の「換金行為」の欄)の記載方法についてはこちらのページで解説しています。
「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」の欄の意味
法律の専門家でもない限り「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」という文章を1度読んでその意味が分かる方は少ないのではないでしょうか。
この文章は、前段の「破産手続の開始を遅延させる目的で」と、後段の「著しく不利益な条件で債務を負担したり」に分かれますので、前段後段に分けてその意味を解説していきましょう。
「破産手続の開始を遅延させる目的」とは?
借金の返済が難しくなってくると、「このままでは借金の返済は難しいな」「自己破産しかないな」と思うことが出てくると思います。
そんな時に「自己破産だけはしたくないから」といってさらに借金を重ねて返済を遣り繰りする(A社からの借金をB社からの借金で返済するなど)こともあるのではないでしょうか。
こういう状態では「破産手続の開始」は既に想定されているでしょう。
また、今後借金を重ねても、その借金の返済が出来るとは本人も考えておらず、ただ単に破産手続きの開始を「遅らせる(遅延させる)」という「目的」があるにすぎないと考えられます。
このように、「このままの状態では自己破産するしかない」と分かっていながら「自己破産手続の開始を遅らせる」という意思があることを「破産手続の開始を遅延させる目的」といいます。
「著しく不利益な条件で債務を負担」とは?
「著しく不利益な条件で債務を負担」とは、代表的にはヤミ金でお金を借りることを指します。
ヤミ金は超高金利でお金を貸すのが通常ですから、借りる側としては「著しく不利益な条件」で「債務を負担する(お金を借りる)」ことになります。
そのため、ヤミ金でお金を借りている場合は「著しく不利益な条件で債務を負担」したということになります。
なお、ヤミ金かどうかを判断する方法についてはこちらのページを参考にしてください。
「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」とは?
以上の意味を踏まえて、前段の「破産手続の開始を遅延させる目的」と後段の「著しく不利益な条件で債務を負担」を併せて考えると、「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」という文章の意味は、
「このままの状態では自己破産するしかない」と分かっていながら「自己破産手続の開始を遅らせる」という意思をもって「ヤミ金など」で「お金を借りること」を指すということになります。
「このままの状態では自己破産するしかない」と分かっていながら「自己破産手続の開始を遅らせる」という意思があったとしても、ヤミ金などではなく通常の消費者金融でお金を借りる場合は後段の「著しく不利益な条件で債務を負担」という条件に該当しませんから、「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」という項目には記載する必要はありません。
また、ヤミ金からの借入があったとしても、「このままの状態では自己破産するしかない」と分かっていなかったり、「自己破産手続の開始を遅らせる」という意思がなかったという場合も「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」という項目には記載する必要はないでしょう。
ただし、この辺りの判断は難しいものがありますので、「ヤミ金」からの借入がある場合には「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり」という項目にその詳細を記載しておくというのが、一般的な陳述書の作成手順と考えておいて問題ないでしょう。
「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」の具体的な記載例
前述したとおり、「ヤミ金からの借入」がある場合には「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」にその詳細を記載することが必要です。
そこで、ここでは「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」の具体的な記載例を作ってみることにいたしましょう。
例えば、借金の返済に追われて電信柱に貼ってあった「090金融」に電話をかけて平成26年6月ごろに「タナカ」から「1週間で10,000円」の利息の約定で10万円を、平成26年7月ごろに「スズキ」から「1週間で20,000円」の利息の約定で20万円を、「ワタナベ」から「一週間で20,000円」の利息の約定で10万円をそれぞれ借り入れていた場合の記載例は次のようになります。
借入先 借入時期 借入金額 約定利率 タナカ 平成26年6月ごろ 10万円 521% スズキ 平成26年7月ごろ 20万円 521% ワタナベ 平成26年7月ごろ 10万円 1042%
※約定利率の計算方法についてはこちらのページを参考にしてください。