自己破産の相談を受けるとよく聞かれるのが、
「保証人のある借金だけ除いて手続きをしてください」
とか
「友人や家族からの借金だけは返済してもいいですか?」
といった類の質問です。
友人や家族、勤務先などから借金があったり、身内の人が保証人になっている場合自己破産の申立てをする場合には、それらの人々に大きな迷惑がかかるだけでなく甚大な経済的損失を与えることになってしまいます。
≫ 自己破産で保証人がいる(保証人になっている)場合の注意点
そのため、これらの人を自己破産の手続きから除外したいという気持ちもわからないわけではありませんが、自己破産の手続きでは全ての債権者を平等に扱わなければならないという大原則があります。
もし一部の債権者を特別扱いして手続きから除外してしまうと次のような重大な不利益を被ってしまいますので注意するようにしてください。
自己破産の「免責」が受けられなくなる
自己破産の目的は「免責(借金の返済が免除されること)」を受けることにあります。
自己破産の免責が裁判所から認められると債権者側は「お金を返せ」と主張する法律的な根拠を失うことになりますから、借金を返済しなくてもよくなります。
しかし、自己破産の手続きには「免責不許可事由」という一定の「事由」が定められていて、そのような免責不許可事由が存在していると、たとえ自己破産の申立てが裁判所に受理された場合でも「免責」が「不許可」となり借金の返済の免除が受けられなくなってしまいます。
この「免責不許可事由」は破産法という法律で10個ほど規定されていますが、その中の一つに「虚偽の債権者名簿を提出した場合」というものが定められています。
自己破産の申立書には債権者をすべて記載しなければなりませんが、その裁判所に提出する債権者一覧表にうその記述をしてしまった場合には自己破産の手続きを正確に処理することができなくなりますから債権者に多大な損害を与えてしまいます。
そのため、「虚偽の債権者名簿を提出した場合」には、免責不許可事由に該当するものとして免責を与えないことにしているのです。
この点、自己破産の手続きから一部の債権者を除外する行為も「虚偽の債権者名簿を提出した場合」に該当することになりますから、免責不許可事由に該当することになります。
自己破産の手続きから一部の債権者を除外するということは債権者一覧表に本来記載しなければならない債権者を記載しないということですから、「虚偽の債権者名簿を提出した」ことになるのです。
このように、たとえ友人や家族からの借金であってもそれを自己破産の手続きから除外することは免責不許可事由の対象となってしまい免責が受けられない結果となってしまいますので絶対にやってはいけません。
説明義務違反という「犯罪」に該当する
前述したように、自己破産の手続きから一部の債権者を除外する行為は「免責不許可事由」に該当しますので絶対にやってはいけませんが、一部の債権者を除外することによる不利益は免責が受けられないというだけの話ではとどまりません。
自己破産の手続きから一部の債権者を除外するという行為は、自己破産の手続きを定めた破産法という法律に定められた「説明及び検査の拒絶等の罪(説明義務違反)」という「犯罪」に該当する恐れがあるので絶対にやってはいけないのです(破産法268条)。
自己破産の申立てを行う場合には、裁判官や破産管財人に対して嘘偽りなく事情を説明しなければなりませんし、裁判官や破産管財人から質問されたことに関しては誠実に回答しなければならない義務が生じます。
それにも関わらず、一部の債権者を除外した債権者一覧表(債権者名簿)を提出して自己破産の手続きを進めようとすることは、裁判官や破産管財人のみならず他の債権者をも欺く行為として厳しく責任を追及されることになり、説明義務違反の罪として罰せられるのです。
ちなみに、「説明及び検査の拒絶等の罪(説明義務違反)」の法定刑は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」となっていますので重罪といえるでしょう。
なお、「バレなきゃいーだろ」と軽く考えている人は多いですが、裁判官や破産管財人はバカではなく何百件も破産事件を処理してきたエキスパートですので、一部の債権者を隠して申立てをしても調査の過程で100%バレることになります。
以上のように、身内や勤務先からの借金を自己破産の手続きから除外したいという気持ちもわからないわけではありませんが、それを実行に移してしまうと免責が受けられなかったり、説明義務違反で逮捕されてしまうといった大きな不利益を受けてしまいますので注意してください。
なお、弁護士や司法書士(またはその事務所の事務員)の中には「依頼人の利益のためなら少しぐらいごまかしてもOK」と勘違いして理解している人がまれに存在していますので、そのようなバカ事務所に相談した場合には依頼者の希望に応じて一部の債権者だけ除外して申立をしてくれる場合もあると思います。
しかし、そのような事務所で申立をしてもらっても、手続きの途中で必ず裁判官や破産管財人に一部の債権者を除外していることはバレることになりますし、そのバレた場合に受ける不利益(免責が受けられないとか説明義務違反で逮捕されるとか)は全て自己破産の申立てを依頼した自分自身に降りかかってくることになります。
弁護士や司法書士から「身内や勤務先の借金は除外しても大丈夫ですよ」と言われて申し立てをした場合であっても、それがバレた時点で弁護士や司法書士がかばってくれるわけではなく、すべて自分自身が責任を負わなければならないのです。
なので、バカな弁護士や司法書士(またはその事務員)の口車に載せられて不正な申し立てをしないよう注意してください。