この点もケースバイケースで判断が分かれるところだと思いますので、依頼する弁護士や司法書士と相談してどうするか決めるしかないでしょう。
前述したように、滞納分の家賃は原則として「負債」として自己破産の手続きに含めなければなりませんが、滞納したままだと退去させられるリスクは無くならないので「生活に必要不可欠な費用」として家賃の滞納分を事前に支払ってしまうことも例外的な方法として認められる余地がないともいえないからです。
この「生活に必要不可欠な費用」の範囲がどれくらいなのかは正直言って分かりません。
1か月分の家賃なら大丈夫なのか・・・
3か月分でも家賃の滞納なら支払っていいのか・・・
破産法という法律上は、優先的に支払っても問題ない「財団債権」となるのかほかの債権者と同様に扱わなければならない「破産債権」となるのか、という小難しい話になってきますので、この辺りについては申し立てをする裁判所や相談する弁護士や司法書士の意見を聞いて判断するしかないでしょう。
さすがに2年も3年も滞納して滞納家賃が何百万もたまっているようであれば支払うのは問題がありそうですが、1か月や2か月分の家賃の場合は個別に検討するほか無いようです。
光熱費の滞納がある場合
自己破産の手続き開始前の光熱費の滞納分は免除の対象となる
光熱費の滞納も、基本的には家賃の滞納と同じような考え方となります。
基本的に光熱費の滞納分も原則として自己破産の手続きに含めなければなりませんので、自己破産の申し立てを行って自己破産の手続きが開始されるまでに生じた滞納分については支払義務が免除(免責)されることになります。
(※ただし、後述するように光熱費の滞納分を債権者として申立てをすると光熱費の供給を止められてしまう可能性があるため、それを回避するために債権者に含めずに滞納分を解消してしまうという方法もあります)
自己破産の手続き開始後の光熱費の滞納分は免除の対象とならない
一方、自己破産の手続きが開始された後の光熱費は自己破産の手続きによって支払免除の対象とはなりませんので、自己破産の開始後の光熱費は全て支払わなければなりません。
光熱費の滞納分が自己破産で免除されると電気ガス水道は止められるか?
この場合、電気・ガス・水道などを供給している会社が「滞納分を支払わないのなら電気(またはガス・水道)を止めてしまうのではないか」という不安が残りますが、法律的には自己破産したことを理由に電気・ガス・水道が止められることはありません。
これは、電気・ガス・水道など継続的に供給を受ける契約などの場合は、自己破産の申し立てによって滞納分の支払いが受けられないことを理由に電気・ガス・水道などの供給をストップすることが法律で禁じられているからです(破産法55条)。
ただし、この法律を各電力会社やガス会社の担当者が全員知っているかというとそうでない場合も多いと思われますので、自己破産して滞納分の支払いが免除されたことをもって電気・ガス・水道などが止められる可能性が絶対にないとは言い切れません。
そのため、そのような不測の事態を防ぐ目的で、その滞納分が高額でなく「必要不可欠な費用」として支払っても問題ないようであれば、自己破産の申し立て前に滞納分を全て支払って光熱費の滞納を解消してしまうという選択肢を採ることも考えられます。
この点は「財団債権」か「破産債権」かという法律的に少し難しい部類の話になってきますので、このような場合は相談する弁護士や司法書士とよく相談して個別に検討するしかないでしょう。
携帯電話などの料金の滞納分がある場合
携帯電話の料金の滞納分も前述の光熱費の滞納分と同様に考えて差し支えないと思います。
ただし、携帯電話の滞納料金を光熱費と同様に扱ってもよいのは滞納料金が「通話料だけの場合」に限られます。
滞納している通話料金に「機種購入代金の分割払い分が含まれている場合」には結論が異なってくるので注意が必要です。
もっとも、まれに携帯電話からインターネット上で商品を購入し、その代金が携帯電話の通話料と合算して電話会社から請求されているような契約がありますが、このような場合には、通常のクレジット契約と同様に処理するのが妥当となります(※この場合には携帯の滞納料金についても自己破産の債権者に含めなければならないため携帯電話の契約は強制解約されることになります)。
なお、携帯電話の料金の滞納があったり滞納分について自己破産の免責によって支払い義務が免除されると、その後の携帯電話の契約が難しくなったりする場合があるようですがその場合の対処方法がないわけでもありません。
自己破産後に携帯電話の契約ができなくなる問題についてはこちらのページを参考にしてください。
NHKの受信料に滞納がある場合
NHKの受信料についても基本的には光熱費や電話料金と同じになります。
もっとも、NHKの受信料の滞納分については、自己破産の手続き上「負債」に含めて免責によって支払いが免除されたとしてもNHKが受信を拒絶するわけでもなくありませんから、何の問題もなくNHKを自己破産の債権者として自己破産の申立てを行えばよいでしょう。
なお、NHKの受信料の滞納分がある場合の自己破産の申立てについてはこちらのページで詳細にレポートしていますので気になる方は参考にしてください。
自己破産の手続き後の光熱費の支払いは?
上記で説明したとおり、光熱費や電話料金の滞納分については自己破産の「負債」として自己破産の手続きに含めるのが原則であり、自己破産の免責が認められればその支払いが免除されることになります。
しかし、この免責によって免除されるのはあくまでも「裁判所から自己破産の開始決定が出されるまでの滞納分」に限られます。
自己破産の申立書を提出すると裁判所の裁判官と書記官が申立書を調査し、問題がなければ自己破産の手続きを開始させる「開始決定」が出されることになりますが、この自己破産の手続きで審理の対象となるのは「開始決定が出されるまで」の負債(借金)に限られます。
自己破産の「開始決定が出された後」に発生する負債についてはこの自己破産の手続き上で審理の対象とはなりませんから、「開始決定が出された後」に発生する光熱費や電話料金については免責の対象とはならないのです。
そのため、裁判所から自己破産の「開始決定が出た後」に発生する光熱費や電話料金(開始決定が出た後に支払い時期の到来する光熱費や電話料金)については、たとえ自己破産の免責が認められても免除の対象とはならず、支払わなければなりませんので誤解の内容にしてください。
例えば、3月支払い分から5月支払い分まで3か月間の電話代を滞納した状態で6月20日に自己破産の申立てを行った事例で、仮に7月1日に自己破産の開始決定が出されたとすると、3月から6月支払い分までの4か月間の電話代の滞納分が免責の対象とになり、7月以降に支払い時期の来る電話料金は自己破産の免責が出たとしても支払わなければならないということになります。
※なお、申立書の債権者一覧表には5月分までの滞納分しか申立書に記載しなかったのであれば5月支払い分までしか免責の対象とならないのではないかと思うかもしれませんが、開始決定が出たのが7月1日なので「開始決定が出されるまで」の6月支払い分まで4か月分の滞納分が免責の対象となります。
自己破産の債権者に光熱費や電話料金の供給元を含めれば「滞納分」の料金は免責(支払いが免除されること)の対象となり支払う必要がなくなりますが、自己破産をしたからといって「光熱費の供給契約」や「電話会社の通話契約」が自動的に解約されるわけではありませんので誤解しないようにしてください。