自己破産の手続きにおいて「浪費」は、免責(借金の返済を免除すること)を認めることができない事由となる「免責不許可事由」となるので、自己破産の手続上厳しくチェックすることが求められます。
そのため、自爆営業がある場合には、裁判所から破産管財人が選任され、その自爆営業がどのような事情によって行われたのか、また、その金額や頻度について厳しく調査されることになる可能性があるでしょう。
なお、破産管財人が選任されると、破産管財人に対する報酬(費用)などが発生しますし(通常は20万円程度)、手続上も複雑になって手続きの期間も伸びるのが通常です。
破産管財人についてはこちらのページで詳しく説明しています。
破産管財人が「否認権」を行使する可能性がある
「否認権」と聞いても法律の専門家でもない限り意味が分からないと思いますが、「否認権の行使」とは、自己破産の申立をした人が、過去に自分の資産(財産)を減らしてしまうような行為を行った事実がある場合に、その行った法律行為を「否認する」、簡単にいうと「取り消す」ことをいいます。
自己破産の手続きでは、自己破産の申立をする人の財産(資産)は全て取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当(分配)されるのが通常です。
しかし、自己破産の申立前に、自己破産をする人の財産(資産)が処分されてしまった場合には、債権者に分配されるべきお金が減少してしまい、債権者が不足の損失を被ってしまうことになります。
このような債権者の利益を守るために作られたのが否認権で、たとえ過去の処分であっても、自己破産の申立人が過去に行った財産の処分行為が不当に債権者の利益を害するものである場合には、自己破産の申立後に選任された破産管財人が、過去にさかのぼってその処分行為を取り消すことができることになっています(破産法160条1項)。
たとえば、Aさんが時価100万円ほどの絵画を持っていたところ、友人のBさんに「その絵画を100万円で売ってくれ」と頼まれ、借金の返済のため資金繰りに窮していたAさんが、すぐに現金が欲しいがためにBさんに100万円で譲り渡してしまったとします。
このAさんが自己破産の申立をした場合、選任された破産管財人は「否認権」を行使して、このAさんとBさんの間で行われた絵画の売買契約を取り消すことができます。
なぜなら、その絵画をBさんに売却しなければ、自己破産の手続きでその絵画を取り上げて売却し、売却代金の100万円を債権者に分配(配当)することができたと考えられるからです。
Aさんは100万円の資産(財産)を不当に減少させてしまったということになりますから、破産管財人がその減少してしまった財産(資産)を取り戻す(回収する)ためにそのBさんとの間で行われた売買契約を取り消すことになるのです。
ところで、この否認権については自爆営業の場合にも当てはまる可能性があります。
なぜなら、たとえ勤務先からノルマを指定されているといっても、生活に必要のない商品を購入した事実は変わらないからです。
その商品を購入しなければ、その商品を購入したときに支払ったお金は「資産(財産)」として自己破産の手続きで各債権者に分配(配当)することができたはずで、その自爆営業で商品を購入したためにその代金の分だけ資産(財産)を不当に減少させたということが言えるため、「否認権」の行使の対象とすることができる可能性があります。
そのため、自爆営業をした人が自己破産の申立をする場合には、選任された破産管財人が勤務先の会社に対して自爆営業で購入した商品の売買契約を「否認権」を行使して取り消してしまう可能性があるのです。
そうなると、勤務先の会社に自分の自己破産を担当する破産管財人から連絡が行くことになりますので当然、自己破産をすることが勤務先の会社に知られてしまうことになります。
勤務先に自己破産をすることがバレると、その先勤務先の会社に居づらくなるかもしれませんので、自腹営業をしてでもその会社に勤め続けたいという場合は上申書を作成し、否認権が行使されると会社を辞めざるを得なくなることを説明して破産管財人が否認権を行使しないように求めることが必要となってくるでしょう。
≪自腹営業について否認権を行使しないよう求める上申書の記載例≫
○○裁判所 破産係 御中 (破産管財人 ○○○○ 殿) 平成○年○月○日 上申書 申立人 破産太郎 ㊞ 否認権の行使について 別添の上申書に記載したとおり、私は勤務先の会社から、いわゆる自腹営業の一環として平成○年○月○日に金○万円、同年○月○日に金○万円の商品を購入しております。 この勤務先の会社との売買契約につきましては、破産法160条1項に規定された否認権の行使の対象になると考えられますが、仮に否認権の行使がなされ、勤務先の会社との売買契約が取り消されてしまうと、私が自己破産の申立を行ったことが勤務先の会社に知られることになり、今後の勤務先での就労に支障をきたす恐れがあります。 そのため、このいわゆる自腹営業に関する商品の購入については否認権の行使をなされないようお願い申し上げる次第です。 以上
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※破産管財人が選任された後に作成する上申書は、裁判所と破産管財人に各1通ずつ提出しなければなりません。
もっとも、裁判所に選任された破産管財人(弁護士)から「自爆営業は不当な財産の減少行為だからお金を返せ」と言われた勤務先の企業が「なんか自爆営業やってることがバレて大変なことになりそうだぞ」と考えて販売ノルマの強制を取り止める可能性もないとは言えませんので、考え方によっては破産管財人に否認権を行使してもらった方がよい場合もあります。
そのため、上記のような上申書を出すかどうかはケースバイケースで各自判断してください
※否認権の行使については、その相手方が債権者を害する事実を知っていることが要件となりますので(破産法160条1項1号後段)、自爆営業のすべてが否認権行使の対象となるわけではありません。自爆営業が否認権行使の対象となるかどうかはケースバイケースで判断が異なりますので、自己破産を依頼する弁護士や司法書士とよく相談して対処してください。
以上のように、自爆営業をしている事実がある場合には、自己破産の手続きである程度問題にされる可能性があります。
数万円程度の自腹営業は問題にされないと思いますが、高額な出費を伴う自腹営業については、自己破産を依頼する弁護士や司法書士とよく相談し、破産管財人にも理解を求めるなどして適切に処理する必要があるでしょう。