ネットカフェ難民やホームレスの問題が取りざたされてい久しいですが、そのような住所を持たない人たちの中には、借金問題に悩む人も多いのではないかと思います。
これらネットカフェ難民やホームレスの人は、収入が全くないか、あってもその日に食べるだけの収入しかないのが実際だと思いますので、これらの人が借金問題を解決して人並みの生活(憲法25条で保障される健康で文化的な最低限度の生活)を取り戻すためには、自己破産を行って借金問題を解決するしかないでしょう。
ところで、このようなネットカフェ難民やホームレスの人が自己破産の申し立てを行う場合に問題となるのが「住所がない」ということです。
自己破産の申立書には申立人の住所を記載する欄が設けてありますし、自己破産が認められた後で官報(国が発行する新聞のような物)で住所と氏名が公表されなければなりません。
そのため、自己破産の申立を行うには、どうしても住所が必要となってしまうと考えられるからです。
そこで今回は、ネットカフェ難民やホームレスの人など、住所の無い人が自己破産する場合にはどのようにすればよいのか、その解決法を考えてみることにいたしましょう。
自己破産の申し立てをする段階では住所がなくても「居所」があれば問題ない
前述したように、自己破産の申立書には「住所」を記載する欄がありますが、この住所は「住民票上の住所」だけに限られるものではありません。
住民票に記載された住所以外の場所に居住している場合には、その現在実際に寝起きしている場所を記載することも可能です。
この現時点で実際に居住している場所のことを法律的には「居所」といいますが、自己破産の手続きを規定した破産法という法律でも、「居所」のある地方裁判所に自己破産の申し立てをすることが認められています。
そのため、自己破産の申立書の「住所」の欄に、住民票に記載された住所以外の「居所」の住所を記載することも可能なのです。
代表的な例でいえば、青森県の実家に住民票の住所を残して東京に上京しているAさんは、東京のアパートの住所を「居所」として記載して東京の裁判所に自己破産の申立をする場合が考えられるでしょう。
このように、住民票上の「住所」ではなくても「居所」があれば自己破産の申立をすること自体はできるということになります。
この点、ネットカフェ難民やホームレスの人であっても、同様のことが言えます。
例えば、秋葉原の「秋葉原駅前1丁目5番3号」にある「秋葉原第一ビルの3階」に店舗を構えているネットカフェ「もえもえスペース秋葉原店」で寝起きしているネットカフェ難民の人が自己破産をする場合を考えてみましょう。
このネットカフェ難民の人が自己破産する場合には、実際に寝起きしている「居所」はネットカフェ「もえもえスペース秋葉原店」なのですから、この「もえもえスペース秋葉原店」の所在地を自己破産申立書の「住所」の欄に記載しても問題ありません。
なぜなら、そこがその人の「居所」であり、その「居所」を管轄とする裁判所への自己破産の申立が法律上認められているからです。
これは、公園で寝起きしているホームレスの場合でも同様です。
仮に「秋葉原もえもえ児童公園」で寝泊まりしているホームレスの人が自己破産の申立をする場合には、その「秋葉原もえもえ児童公園」の所在地を「居所」として申立書に記載して自己破産の申立を行っても基本的に問題にはならないことになります。
「居所」は実際にそこで寝泊まりしているかという点で判断され、住民票の住所や郵便物が届くかどうかは問題になりませんので、たとえ住所のないネットカフェ難民やホームレスの人であっても、自己破産の「申し立て自体」は可能ということになります。
※ただし、この方法はあくまでも例外的な方法ですので、すべての場合にこのような申し立てが受理されるかといえばそうは言えないと思います。
後述するように、基本的には自己破産の申立書には「住所」を記載することが求められますし、申し立て後の手続きを進めていくには「住所」を決める必要があることも必要となってきますので注意が必要です。
ただし、弁護士や司法書士に依頼することが前提となる
前述したように、住所のないネットカフェ難民やホームレスであっても、その居住している場所であるネットカフェや公園などを「居所」として自己破産の申し立てをすること自体は可能です。
ただし、この場合には、弁護士や司法書士に自己破産の申立を依頼することが必要となります。
なぜなら、自己破産の申立においては、「送達受取人」や「送達場所」を指定しなければならないからです。
「送達受取」という言葉は聞いたことがない人が多いと思いますが、裁判所から「発送(送達)」される通知書などを「受け取る」人物のことを「送達受取人」といい、その裁判所から発送される書類を受け取る場所のことを「送達場所」といいます。
裁判所から発送(送達)される書面は、書留郵便などの郵便物として送られてきますので、当然ながら「送達受取人」や「送達場所」は、『住所』のある人でなければなりません。
そのため、郵便物の届く場所を持っていないネットカフェ難民やホームレスの人は「送達受取人」や「送達場所」として指定しても「送達」をすることが事実上不可能になりますから、自己破産の申立においては不適格になってしまい、申し立てが受理されないのです。
しかし、弁護士や司法書士に依頼すれば、依頼を受けた弁護士や司法書士の事務所を「送達受取人」や「送達場所」として指定することができるのでこの問題は解決できます。
弁護士や司法書士に自己破産を依頼した場合には、弁護士や司法書士の事務所を「送達受取人」や「送達場所」と指定して申立書に記載しておけば、裁判所からの文書は全てその弁護士や司法書士の事務所に送付されるので不都合はなく、自己破産の申立は受理されることになります(※注)。
※注)正確には弁護士に依頼した場合にはその弁護士が「送達受取人」に、その弁護士の事務所が「送達場所」になり、司法書士に依頼した場合には自己破産の申立人本人が「送達受取人」に、その依頼した司法書士の事務所が「送達場所」になるということになりますが、自己破産を依頼する側から見ればどちらも同じなので、弁護士と司法書士のどちらに依頼しても問題ありません。
このように、自己破産の申立においては郵便物の配達ができる場所を「送達受取人」や「送達場所」とし指定しなければなりません。
自己破産の申立自体は、弁護士や司法書士に依頼しなくても自分で申立書を作成して裁判所に提出し手続きを進めることが可能ですが、住所の無いネットカフェ難民やホームレスの人が自己破産をする場合には、必ず弁護士か司法書士に自己破産の手続きを依頼しなければならないことになりますので注意が必要です。
※なお、お金がないから弁護士や司法書士に依頼できないと思うかもしれませんが、民事法律扶助という制度を使えば弁護士や司法書士の費用を立て替えてもらえますし、生活保護を受けている場合は0円で(無料で)自己破産の依頼をすることが可能です。この点については後述します。
「住所」となる定住できる場所を確保できる予定があることが必要
上記のように「申立をする時点」ではネットカフェや公園などの所在地を「居所」として自己破産の申し立てをすることは可能です。
ただし、ネットカフェや公園などの所在地を「居所」や「住所」として申立書を提出するだけでは、裁判所は申立書を受け付けないと思います。
なぜなら、自己破産の申立自体は「居所」でも構いませんが、申立書には「住所」の記載が必要となるからです(破産法規則13条)。
なぜ「住所」が必要かという点には理由がいくつかあると思いますが、住所がないと生活の再建ができないため自己破産を認めても問題の根本的な解決にならないことや、官報に公告を出す際に(自己破産が認められると国が発行する官報という新聞のようなものに住所と氏名が公表されます)、ネットカフェや公園の所在地を住所として載せることができないことが挙げられます。
そもそも、裁判所としてもネットカフェや公園に寝泊まりしているホームレスの状態にあることを知りながら、「自己破産の免責は出すからあとは元気に頑張ってくださいね」と言って、何の対処もせずに路上生活に後戻りさせて手続きを終わせることはできないでしょう。
そのため、住所がない状態で自己破産の申立をする場合には、「現在は住所がないけれども、近い将来に定住する場所を見つけることが可能であること」が前提となり、それを裁判所に説明しておくことが必要になります。
具体的には、収入がある人についてはアパートを借りる予定であったり友人の家に居候できるような状況であることが必要となり、収入がない人や収入があってもアパートを借りるほどの収入がない人については生活保護の受給申請中で生活保護が支給されればアパートなどを賃貸する予定にしている状況であることが必要となってきます。
このように「近い将来住所を持つことができる状態にあること」を説明することができるのであれば、裁判所としても自己破産の申立書の「住所が記載されていないという不備」の点について「現在は住所がないけれども、今後その申立書の不備については改善されるな」と判断し、申立書を受理してもらいやすくなります。
※ただし、自己破産の手続き中に居住している場所を移動する場合には裁判所の許可が必要となりますので、実際にアパートなどを借りて公園やネットカフェから転居する場合には「居住地の変更に関する申立書」を裁判所に提出する必要があります。
上申書が必要となる
上記のように、住所がない状況でネットカフェや公園の所在地を「居所」として自己破産の申立を行う場合には、近いうちにアパートなどを借りて住所を作る予定であることが前提となります。
しかし、自己破産の申立書にはそのような状況を記載する欄は設けられていません。
そのため、ネットカフェや公園の所在地を「居所」として自己破産の申立を行う場合には、自己破産の申立書とは別に「上申書」という書類を作成し、自己破産の手続き中に住所を決める予定であること、住所を決めることができる蓋然性があることなどを記載して裁判所(裁判官)に説明することが必要となってきます。