自営業者が自己破産する場合、取引先に買掛金がある場合は注意が必要です。
買掛金とは、相手方から何らかの物品を購入したり、何らかの作業をしてもらった場合に、その相手方に支払うべきお金のことをいいます。
例えば、ケーキ屋さんを経営する自営業者が食材の卸売問屋から小麦粉を10kg購入した場合に、その代金を翌月の末までに支払うということになっている場合には、その小麦粉の購入代金は買掛金となります。
また、大工の自営業者が家の建築を請け負った際に電気工事の部分を他の業者に下請けに出していた場合には、その下請け業者にやってもらった電気工事の費用は買掛金となります。
取引先に買掛金がある場合に自己破産することが取引先にバレてしまう理由
ところで、この買掛金は「支払わなければならないお金」ということで「負債」となります。
そのため、仮に自己破産の申し立てする場合には、これら買掛金は他の銀行や消費者金融からの借金と同様に「負債」として処理しなければならなくなってしまいます。
そうなると、自己破産の申立書の債権者の欄に、これら買掛金の支払先(前述の例でいえば小麦粉を販売する卸売問屋や電気工事を請け負った電気工事業者)を「債権者」として記載しなければならなくなります。
自己破産の申立書に「債権者」として記載した相手先には、裁判所から「この人が自己破産の申し立てをしましたから裁判所に債権届を出してくださいね」という通知が送られることになりますので、取引先に自己破産することがバレてしまうことになります。
もちろん、取引先は買掛金を回収することができなくなりますので、取引差に大きな迷惑をかけることになるでしょう。
取引先に自己破産することがバレるのを防ぐため、自己破産の申立書に取引先の買掛金を記載せず、買掛金のあることを伏せて申立を行えば良いと考える人もいるかもしれませんが、これらの行為は詐欺破産罪(破産法265条)や説明義務違反(破産法268条)として処罰される可能性があるため行うべきではありません。
また、取引先からの買掛金だけを自己破産の申し立て前に返済してしまうことも考えられますが、これは偏波弁済(※特定の債権者だけに返済をすること(破産法252条1項3号))となり、返済を受けられない他の債権者の利益を害することになってしまうので禁じられています。
下手をすると免責不許可事由に該当し借金の返済免除が受けられなくなったり、詐欺破産罪で逮捕されてしまいます。
取引先に自己破産したことが知られてしまうと信用を失うことになり、以後の事業の継続に支障が生じることも考えられますが、これを回避する方法はありませんので注意が必要です。
対処方法としては、自己破産の申し立て前に取引先に事情を説明し、取引先の理解を得るほかないというのが実情です。
なお、買掛金が極めて少額の場合は、ウルトラCの回避策として自己破産の前にその買掛金を偏波弁済になることを承知で返済し、自己破産の申立段階で上申書を作成して裁判所に正直に偏波弁済をしたことを告白して裁判所の理解を得るという方法もあります。
しかし、これは前述したように原則的には偏波弁済として免責不許可事由となり、裁判官によっては厳しく指摘してくる場合もありますのでリスクは極めて高いと考えておいた方がよいでしょう。
そのため、もしも自営業者が自己破産の申し立てをする場合に買掛金があるときは、自己破産を依頼する弁護士や司法書士とよく相談し、その買掛金をどのように処理するのか(取引先に自己破産することを事前に伝えて理解を求めるのか、それとも偏波弁済を承知で事前に返済し裁判官や他の債権者の理解を求めていくのか)を十分に考えて申し立てをすることが肝要になります。
最後に、買掛金が極めて少額の場合に、自己破産の申立の前にその買掛金の未返済を行い、自己破産の申し立て時にその買掛金の返済について裁判所に理解を求めるための上申書の記載例を挙げておきますので参考にしてください(※あくまでも記載例であり、このような上申書を提出したからと言って偏波弁済がすべて認められるというわけではありませんのでご注意ください)。
○○地方裁判所 破産係 御中 平成○年○月○日 上申書 申立人 破産太郎 ㊞ 買掛金の偏波弁済があることについて 申立人である私は、本件自己破産の申立書に添付した債権者一覧表に挙げていない債権者に対して、平成○年○月○日に金○万円の返済を行っております。 これは、取引先である株式会社小麦粉商店(以下、単に「取引先」という)に対し、同年○月と○月の2か月間に購入した小麦粉の代金を支払ったもので、○○銀行の口座から振り込みの形で送金したものでございます。 この取引先に対する返済が、破産法252条に列挙された免責不許可事由に該当するものであるということは十分に承知しております。 しかし、この取引先は私がケーキ店を開業した当初から取引をしてきた業者で、他の卸売問屋よりも2割ほど安い値段で良質の材料を販売してくれることから私が今後も継続してケーキ店を営んでいくためにはこの取引先との関係は欠かすことができないものとなっております。 そのため、仮にこの取引先を債権者に挙げてしまった場合は、この取引先の信用を失ってしまい、廃業を余儀なくされてしまうのではないかという不安があったため、やむなく偏波弁済と知りながら返済するに至ったものでございます。 私の行ったこの取引先に対する返済は、偏波弁済として他の債権者の利益を害し、特定の債権者を優先することによって多くの関係者の信頼を損なうものであることは認識しています。 しかし、私が今後もケーキ店を継続して営む上で、この取引先との関係は欠くべからざるものであり、自己破産後の生活再建に必要不可欠なものでもあると考えております。 そのため、私の身勝手な判断で各債権者に対して信頼を損なうことになるとは思いますが、私の窮状をご察し下さり、本件偏波弁済に寛容なご理解を承りたく上申する次第でございます。 以上 |