自己破産の申し立てをする人がヤミ金からお金を借りている場合、ヤミ金をからの借入やヤミ金に対する返済について、自己破産の申立書に記載することが求められます。
具体的には、ヤミ金との取引の詳細を、申立書の「債権者一覧表」「陳述書」「資産説明書(資産目録)」の3か所に記載することが求められますが(※但し、債権者一覧表への記載は任意)、なぜヤミ金を自己破産の申立書に記載しなければならないのかといった根本的な問題や、具体的にヤミ金をどのように申立書に記載してよいかは、なかなか分かり難いかもしれません。
そこで、ここでは自己破産でヤミ金からの借入がある場合の自己破産申立書の書き方について考えて見ることにいたしましょう。
債権者一覧表への書き方
ヤミ金は自己破産申立における債権者となるか?のページでも説明しましたが、手続きの便宜上、ヤミ金を自己破産の債権者として申し立てをすることが可能です。
ヤミ金からの借金は法律的には返す必要がありませんから、厳密に言えばヤミ金を「債権者」ということはできませんが、自己破産の手続上はヤミ金を「債権者」として扱うことも認められているのです(※もちろん、ヤミ金を債権者として扱わないこともできます)。
※ただし、ヤミ金を自己破産の手続きに含めたとしてもヤミ金の取り立てが止むわけではありません。ここで言っているのは、あくまでもヤミ金を「債権者として扱うこともできる」というだけのことですので誤解しないようにしてください。
ヤミ金を債権者一覧表に記載する場合は、「債権額(債務額)」の欄には「0円」と記載します。
これは、最高裁判例では著しく高利で貸付を行っているヤミ金ついては、元利金の一切を支払う必要がないと判示されているからです。
ヤミ金に返済する必要はないということは、ヤミ金は債権を有していないということになりますから、債権額(債務額)の欄には「0円」と記載します。
ヤミ金が請求してきている金額をそのまま債権額(債務額)として記載しても構いませんが、ヤミ金の主張を認めていると受け止められるのも気持ちが悪いですし、かといって「債権額(債務額)」の欄を空白にしてしまったのでは裁判所から「単なる書き忘れ」と判断される可能性があり不都合です。
そのため、債権者として挙げたヤミ金に「債権がない(債務がない)」ということを表示するために債務額に「0円」と記載することになります。
「0円」と記載するのが「何か変」と思う人もいるかもしれませんが、「0」という数字が存在している以上、債権額(債務額)が「0円」と記載しても何ら問題はありません。
陳述書への書き方
ヤミ金からの借入は「著しく不利益な条件で債務を負担」する行為に該当します。
そのため、ヤミ金からの借入がある場合には、陳述書の「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したことを記載する欄」にその詳細を記入しなければなりません。
ヤミ金からの借入がなぜ「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したこと」になるか分からない人も多いかもしれません。
しかし、ヤミ金からお金を借りるということは、他の一般的な貸金業者からお金を貸してもらえない状況にあることが想定されますし、その時点ですでに経済的に破たんしており、自己破産をする必要がある状況にいるということが言えます。
それにもかかわらずヤミ金からお金を借りて返済を遣り繰りすることは、本来その時点でしなければならない破産手続を遅らせているということができます。
また、ヤミ金は法外な利息で貸し付ける高利貸しですから、ヤミ金からお金を借りることは「著しく不利益な条件で債務を負担した」ということができます。
そのため、ヤミ金からお金を借りることは、「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したこと」に該当することになるのです。
なお、「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したこと」の欄の具体的な記載方法についてはこちらのページを参考にしください。
≫陳述書の作成手順(17)不利益な条件での債務負担の記載方法
資産目録への書き方
ヤミ金からの借入があり、ヤミ金に対して返済を行っている場合には、資産説明書にヤミ金に返済したお金の全額を「資産」として記載しなければなりません。
なぜなら、ヤミ金は不法な利息を巻上げることを目的としていますから、ヤミ金に対してお金を返済する法律的な義務はなく、ヤミ金に対して支払ったお金は返してもらう権利が発生するからです。
最高裁の判例(最高裁平成20年(受)第569号)でも
「ヤミ金が著しく高利(年数百%~数千%)で貸付を行った場合には、その借主側はヤミ金に弁済として支払った全額の返還を求めることが出来る。」
と判示されていますので、ヤミ金からお金を借りて弁済を行っている場合は、その全額の返還請求をすることが可能なのです。
ヤミ金に支払ったお金の返還請求ができるということは、そのお金は自己破産する人の「資産」となりますから、資産説明書(資産目録)に資産として記載しなければならないことになります。
ヤミ金に対する請求権の資産目録への具体的な書き方
例えば、「ヤミ金Xから「1週間後に利息として20,000円を支払えば、さらに1週間返済期間が延びる」という約定で10万円を借り、20,000円を4回にわたってXに弁済した」という事例での資産目録への書き方は次のようになります。
なお、ヤミ金に対する請求権は資産目録の「貸金・求償金等」の欄に記載するのが一般的なようですが、東京地裁などの申立書では「その他、破産管財人の調査によって回収が可能となる財産」の欄に記載するようですので、ここでは2種類の記載欄への書き方を例示しておきます。
≪東京地裁で使用されている資産目録へのヤミ金に対する請求権の書き方≫
相手方 | 金額 | 時期 | 備考 |
X | 80,000円 | ○年○月○日 ~〇年○月○日 | 相手方が住所不明のヤミ金である ため回収不能と思われる |
円 | 年 月 日 |
≪福岡地裁で使用されている資産説明書へのヤミ金に対する請求権の書き方≫
種類 | 相手方 | 金額 | 発生時期 | 回収見込 | 回収不能の理由 |
求賞金 | X | 80,000円 | ○年○月○日 ~○年○月○日 | □有☑無 | 相手方が居所が不明のため |
円 | 年 月 日 |
なお、「貸金・求償金等」・「その他、破産管財人の調査によって回収が可能となる財産」の欄の書き方はこちらのページも参考にしてください。
≫資産目録(説明書)の作成手順(7)貸金・求償金の欄の記載方法
≫資産目録の作成手順(17)管財人が回収可能な財産の記載方法