自営業を営んでいる人が自己破産をする必要性に迫られた場合、自己破産の後も自営業を続けられるかという点について気がかりな人も多いのではないでしょうか?
自営業者の場合、資金繰りなどで銀行や消費者金融から借り入れをすることも多いと思いますが、その返済が厳しくなった場合には自己破産をすることも考えなければなりません。
その際、借金の原因が仕事上の資金繰りにあった場合には、借金の原因となる自営業の仕事を辞めない限り、たとえ自己破産が認められて借金の返済が免除されたとしても、根本的な解決にはならないでしょう。
なぜなら、借金の原因が自営業の仕事そのものにある限り、いったん借金の問題が解決しても、また銀行やサラ金から借金を重ねることになってしまい、二度三度と自己破産をしてしまう可能性があるからです。
そこで今回は、自営業者が自己破産をする場合、自営業の仕事を辞めなければならないのか、という点について考えてみることにいたしましょう。
自営業者が自己破産をする場合、仕事を廃業するのが基本
結論から言うと、自営業者が自己破産をする場合、自営業の仕事を廃業するのが基本的な考え方となります。
なぜなら、前述したように、借金の原因が自営業を営む上での資金繰りにある場合は、自営業の仕事そのものが借金の根本的な原因であり、利益を生み出すような事業として成り立っていないと考えられるからです。
自営業を続けても、その自営業を辞めない限り借金の連鎖は終わらないといえます。
たとえ自己破産が認められて借金の返済が免除されたとしても、また同じように借金を繰り返し、2年後3年後には再び自己破産に陥ってしまうことが予想されますから、根本的な借金の原因となっている自営業を廃業するのが自己破産が認められるための前提条件となるといえます。
裁判官から廃業を勧められることもある
自己破産の手続きを担当する裁判官にもよりますが、自営業者が自己破産する場合はたいてい裁判官から自営業を廃業するように勧められることになります。
もちろん、憲法で「職業選択の自由」が保障されていますから、裁判官が命令口調で「廃業しなさい!」と言ってくることはありません。
しかし、自己破産の免責(借金の返済を免除すること)を認めるかどうかは裁判官の心証で判断されますし、債権者側に理解を得るためにも借金の根本的な原因となっている「自営業の仕事」が改善されない限り(言い換えれば自営業を辞めない限り)、裁判官としても免責を認めることはできないのです。
そのため、裁判官としては
「借金の根本的な原因となっている自営業の仕事を辞めないと、たとえ今回自己破産の免責を認めてもまた借金を重ねて同じことをくりかえるだけでしょう?だったら自営業を辞めないと自己破産の免責を認めても意味ないでしょう?」
と、暗に自営業を勧めるしか仕方ないのです。
私が過去に受任した自営業者の自己破産案件でも、自己破産の審問(裁判所に呼び出されて裁判官から根掘り葉掘り聴取を受ける手続き)で裁判官から
「自営業の仕事は今後も続けるつもりですか?」「自営業の資金繰りが借金の主たる原因となっているようですから自営業を廃業しないと自己破産の免責を認めても根本的な解決にはならないでしょう?」
と廃業をすることを免責の前提として勧められた経験があります(※もちろん憲法上職業選択の自由が認められていますので裁判官から「廃業しろ」と命令されることはありませんが、免責を出すか出さないかは裁判官の裁量次第となるので確実に事業で順調に利益を出すことが出来る証拠でも出さない限り廃業せざるを得ないでしょう)。
このように、借金の原因が自営業の仕事そのものにある場合には、自営業を廃業することが自己破産の免責を受けるうえでの必須の条件と考えることができますので、自己破産をした後も自営業を継続したいと考えている人は、今一度考えを改める必要があるでしょう。
借金の原因が自営業そのものと関係ない場合は廃業する必要はない
前述したように、自営業者が自己破産する場合には、その自営業の仕事を廃業するのが基本的な取り扱いとなりますが、借金の主たる原因が自営業の仕事と関係ないものである場合には、自営業を廃業する必要はありません。
たとえば、自営業で大工を営んでいるAさんが、兄弟であるBさんの住宅ローンの保証人になっている場合を例に考えてみましょう。
もしも住宅ローンを組んでいるBさんが住宅ローンの返済に行き詰って夜逃げしたような場合には、その保証人になっているAさんの方に一括返済の請求が来てしまいます。
この場合、AさんがBさんに代わってBさんの住宅ローンを返済できないような場合には、Aさんは自己破産をするしかありません。
しかし、もしもAさんの大工の仕事が順調で、Aさん自体が借り入れたAさん固有の借金がないような場合には、なにもAさんは大工の仕事を廃業する必要はないといえます。
そのため、もしもこのような事例でAさんが自己破産した場合であっても、自己破産の申し立てを行った裁判所の裁判官から大工の自営業を廃業するように求められることはないと思われます。
このように、借金の原因が自営業の仕事と全く関係ない場合には、自己破産に際して自営業を廃業する必要はないといえます。
以上のように、自営業者が自己破産を申し立てる場合には、その営んでいる自営業を辞めざるを得ないこともあると覚悟を決めることも必要です。
自己破産の免責(借金の返済が免除されること)は無条件に認められるものではなく、借金の根本的な原因が改善されない限り債権者や裁判官からの理解を得られることはありません。
借金を繰り返すことが予想される自営業を営んでいる人については、自己破産が認められる可能性は極めて低いことを肝に銘じておいた方がよいと思います。