なお、この場合の上申書の作成例は次のようなものになります(※弁護士や司法書士に依頼すれば依頼を受けた弁護士や司法書士に作成してもらえますので自分で上申書を作成する必要はありません)。
○○地方裁判所 破産係 御中
平成○年○月○日
上申書
申立人 破産太郎 ㊞
申立時点で住所がないことについて
私は、本件破産申立書に記載したとおり特定の住所を持っておらず、東京都千代田区○○に所在するインターネットカフェ「もえもえスペース秋葉原店」で寝泊まりしています。
この住所がない点については現在、自己破産の申立を依頼した司法書士の助言を受けながら千代田内の福祉事務所に生活保護を申請している最中であり、生活保護の支給が認められれば都内に賃貸アパートを借りる予定にしております。
本来であれば、新しい住居が決まった時点で自己破産の申立をしなければならないと思われましたが、生活保護の需給の見込みができたこと、および、友人や親族などからの借金について頻繁に督促の電話が入ってくることから、早急に借金の問題を解決したいと考えたため、住所の無い状況で自己破産を申し立てるに至りました。
自己破産の申立書には住所の記載がなければならないと思われますが、近日中には生活保護の申請が認められ、来月中には賃貸アパートの契約もできる見込みでございますので、本件破産申し立てを受理していただけるよう上申する次第でございます。
以上
このような上申書を自己破産の申立書に添付しておけば、裁判官も「自己破産の申立書に”住所”の不備はあるけれども、近日中に補正(訂正)が可能であるようだから、この申し立ては受理しよう」と考えてくれるはずですので、自己破産の申し立てが受理してもらいやすくなると思います。
※ただし、このやり方はあくまでも例外的な方法なので、裁判所や申立書を審査する書記官によっては受理してもらえないこともありますので注意が必要です。
このような上申書を添付しても自己破産の申立書を受理してもらえない場合は、原則に立ち返って、まず生活保護などの受給申請をしてアパートなどを借りてから自己破産の申立をするしかないと思います。
収入がない人は生活保護の需給が必要となる
前述したように自己破産を「申し立てる段階」では、住所がなくても自己破産の申立をすることは可能ですが、申立書が裁判所に受理されて手続きを進行してもらうためには近いうちに「住所」となるような住居に居住することができることが前提となります。
ネットカフェ難民に限らず、ホームレスの人の中にも収入がある人はいると思いますので、もしもアパートを借りれるぐらいの収入がある人は、自己破産の申立後にアパートを借りるようにしていかなければならないでしょう。
一方、収入が全くなかったり、収入があってもアパートを借りられるほどの収入が得られていない人の場合は、そのままではどうにもなりませんので自己破産の申立と前後して最寄りの自治体(市役所・市町村役場)に生活保護の申請をする必要があります。
生活保護の申請については、自分が受給できるか不安だったり、住所がないから申請しても受給できないのではないかと思う人が多いかもしれませんが、住所がない人でも生活保護の受給は可能ですので心配はいりません(※住所がないと生活保護を受けられないというデマがネット上に散見されますが、これは明らかに間違っていますので安心してください)。
もしも不安であれば、自己破産を依頼する弁護士や司法書士にその点も相談すれば、その弁護士や司法書士が生活保護の申請をする福祉事務所まで付き添ってくれますので何の心配もありません。
弁護士や司法書士は、弁護士会や司法書士会の方から「生活保護の申請が受理されないような相談があった場合には福祉事務所まで付き添うなど積極的に援助するように」といったような指導を受けていますので、よほど悪質な金儲け主義の弁護士や司法書士でない限り福祉事務所への付き添いはしてもらえるはずです。
もしも依頼する弁護士や司法書士が付き添いを拒絶する場合には、弁護士会や司法書士会に苦情の電話を入れればよいですが、そもそもそのような弁護士や司法書士に依頼してもロクなことはありませんので、そのような場合には他の弁護士や司法書士に依頼する方がよいかもしれません。
なお、全国の弁護士会や司法書士会によっては生活保護申請の援助活動(無料)をしているところもありますので、そちらに電話をして相談を受けてもらっても良いと思います。
参考までに、東京弁護士会と福岡県弁護士会の生活保護申請の援助に関するサイトと、国の設置した「法テラス」という法律相談機関の生活保護に関するサイトへのリンクを貼っておきますので気になる方は電話して聞いてみてください。
≫ 生活保護支援システム – こんなときどうする? | 福岡県弁護士会
このように、自己破産の申立時点では「居所」である「ネットカフェの所在地」や「公園の所在地」を「居所」としても問題ありませんが、自己破産の手続きを進めて免責を受けるためには「住所」が必要となってくるので注意が必要です。
なお、ここでいう「住所」とは、住民登録上の住所(住民票の住所)という意味ではなく、きちんとした郵便物の届くような場所という意味です。
そうはいっても、「弁護士や司法書士に依頼するお金がない」という人はどうすればよいか?
以上のように、弁護士や司法書士に依頼し、生活保護を受ける等などして住所を確保できるような状態にあることを上申書に記載して申し立てを行えば、たとえ住所がない人であっても自己破産の手続きを進めることは可能です。
もっとも、そもそも住所がない人は弁護士や司法書士に依頼するお金もないというのが通常ですから、
「金がないからネットカフェ難民になってるんだろ?金がないのに弁護士や司法書士に依頼なんかできるわけねーだろ!!」
と思う人も多いかもしれません。
しかし、この点については全く問題ありません。
なぜなら、お金が1円もなくても弁護士や司法書士に自己破産を依頼することはできるからです。
国が設置した「法テラス」が行っている弁護士や司法書士の費用を立て替える「民事法律扶助」の申請を行えば、弁護士や司法書士に依頼する際に必要となる弁護士費用や司法書士費用は、その全額を法テラスに立て替えてもらえることが可能です。
そして、この立て替えてもらった弁護士費用や司法書士費用は、通常であれば手続きが終わった後で分割で返済しなければなりませんが(通常は毎月5,000円の分割となる)、生活保護を受けている人については返済が全額免除されます。
そのため、生活保護を受けていたり、近いうちに生活保護を受給できる人の場合には、実質的に0円で自己破産をすることが可能となるのです。
なので、住所がないネットカフェ難民の人やホームレスの人であっても全く問題なく、1円も払わなくて自己破産の申立は可能となりますので、何も不安に思うことはないでしょう。
なお、法テラスの行っている民事法律扶助の制度は、全国の法テラスが行っている無料の法律相談会に行く場合のほかに、最寄りの弁護士や司法書士の事務所に直接相談に行った場合であっても利用することができますので、自分が依頼したい弁護士や司法書士に「民事法律扶助を利用したい」ということを伝えて積極的に利用するようにしましょう。
≫ 債務整理で法テラスを利用する場合、法テラスに行く必要はない?
なお、民事法律扶助についてはこちらのページにも記載しています。
≫ 法テラスの法律扶助(立替制度)の収入審査が「ゆるい」って本当?
自己破産以外の解決方法(消滅時効の援用)
上記のように、ホームレスやネットカフェ難民の人が借金問題を解決する方法としては自己破産を申し立てる方法が一般的ですが、ホームレスやネットカフェ難民としての生活が5年以上経過している場合は「消滅時効の援用」という方法を利用する方がよいかもしれません。
借金は最後の返済から5年以上経過した場合には、お金を貸した側(債権者※銀行や貸金業者などの消費者金融)は「お金を返せ」と請求する権利を失うことになり、これを「消滅時効」といいます。
ホームレスやネットカフェ難民を5年以上継続している人の場合は、最後の返済の日から5年を経過しているのが通常ですから、ほとんどの場合この「消滅時効」を主張(援用)することができるはずです。
そのため、5年以上ネットカフェや公園で寝泊まりしているというような人は自己破産ではなくこの「消滅時効の援用」を利用して借金問題を解決するのも一つの方法として知っておいた方がよいでしょう。
なお、消滅時効の援用についてはこちらのページに記載していますので参考にしてください。
≫ ホームレスやネットカフェ難民の人が簡単に借金問題を解決する方法
最後に
以上のように、住所がない人でも自己破産の申立は可能ですし、住所がなくても人生をやり直すことは100%可能です。
弁護士や司法書士も人それぞれ考え方が異なりますので「住所がないと自己破産なんてできないよ」と言う人もいるかもしれませんが、それは必ずしも正しいとは言い切れません。
住所がなくても、やり方によっては自己破産の申立は可能ですので、あきらめずに行動してぜひ元の生活を取り戻してもらいたいと思います。