自己破産の申立書には、記載すべき事項の全てについて、嘘偽りなく正確に記載することが求められます。
事実と異なる記載をして自己破産の申し立てを行った場合、説明義務違反(破産法268条1項)や詐欺破産(破産法265条1項)などの罪で逮捕される可能性があるので注意が必要です。
ところで、性産業で働いている女性(男性も同じ)が自己破産をすることもあると思いますが、その場合にも正直に「私は性産業従事者です!」と記載しなければならないのでしょうか?
性産業で働いている人の中には、自分が性産業で働いているのを隠していたり、人に知られると恥ずかしいと思っている人も多いと思います。
もしも正直に「私は”性産業”嬢です!」と宣言しなければならないとなると、それが嫌であるために自己破産することを思いとどまり、無理な返済を続けてしまうといったことにもなりかねないので問題となります。
申立書(陳述書)に「性産業従事者」であることを記載する必要はない
この点、自己破産の申立書の陳述書(報告書)には、職業や職種を記載する欄がありますが、職種の欄に「性産業従事者であること」をあからさまに記載する必要はありません。
自己破産の申立書にはウソ偽りなく正直に記載することが求められますが、だからと言って馬鹿正直に「”性産業”嬢」と記載する必要はないのです。
職種の欄は「アルバイト」と記載してもよいですし、「サービス業」や「サービス員」でも構わないでしょう。
”性産業”で働く人は正社員ではなく「アルバイト」で働いていることが通常ですし、男性の体を気持ちよくさせる点では「サービス業」や「サービス員」でも間違いではありませんから、ことさらに「性産業従事者」であると記載しなくても嘘を記載したことにはなりません。
それに、なにも「”性産業”嬢」と記載しなくても、裁判官も薄々感づいていると思いますから、ことさらに「〇〇嬢」などと記載する必要はないのです。
ただし、就業先(会社名等)の欄には、お店の名前を正直に記載する必要があるでしょう。
たとえば、「ときめき女学院」というお店で働いている場合には就業先(会社名等)の欄に「ときめき女学院」と記載しなければなりません。
もっとも、その「ときめき女学院」を運営しているのが「株式会社毛見毛見興業」である場合には、就業先(会社名等)の欄に「株式会社毛見毛見興業」と記載しても構わないでしょう。
裁判官に聞かれたら、正直に「性産業で働いている」と答えなければならない
上記のように、申立書(陳述書)には、あえて「〇〇嬢」と記載する必要はありませんから、自分が性産業で働いていることをあえて宣言する必要はないでしょう。
しかし、裁判官から「あなたは性産業で働いていますか?」と聞かれたら、正直に「はい、性産業で働いています」と答えなければなりません。
自己破産の申立を行うと、裁判所に出頭し、裁判官(事案によってはプラス破産管財人)と面談をしていろいろと事情を聞かれる場合があります(これを審問といいます)。
この審問の際に裁判官から聞かれたことは、全て正直に答えなければなりませんから(正直にこたえないと説明義務違反で逮捕される可能性がある)、裁判官から「あなたは〇〇嬢ですか?」と聞かれたら、正直に「はい、〇〇嬢です」と答えなければならないのです。
もっとも、性産業で働いているかどうかで破産手続きに違いはありませんし、あえて自己破産の申立人を辱めようとする裁判官もいないと思います。
ですから、よほど常識の欠落した裁判官に当たらない限り、「あなたは〇〇嬢ですか?」などと馬鹿な質問をされることはないと思います。
弁護士や司法書士にもあえて「私は性産業で働いています」と申告する必要はない
このように、人には言えないような職業に就いている場合であっても、言葉の選び方によってはうまく表現を変えて申立書を作成することも可能です。
なので、そのような仕事をしている人も、職業のことで自己破産を思いとどまる必要はまったくないのではないかと思います。
なお、弁護士や司法書士の事務所に相談に行った際に「私は性産業で働いてるんですけど」とわざわざ申告する必要も特にありません。
勤務先や職業は正直に話さないといけませんが、「ときめき女学院というお店で働いています」とだけ言えば弁護士や司法書士も察してくれますので、それ以上のことを説明する必要はなく、聞かれることもないでしょう。
職種を聞かれたら「マッサージしています」と答えてもいいでしょう(もちろん「〇〇で働いています」と返答するのが一番わかりやすいですが)。
私も過去に一度だけ性産業で働いている人の自己破産を処理した事がありますが、依頼人から直接性産業で働いていると言われなくても申立書を作成している段階で「この人性産業で働いているんだな」と分かりますし、分かったからと言って他の依頼人と別に変わりはなく、あえて性産業従事者であることを確認する必要性もありませんから、特段そのことを質問することもありませんでした。
申立書にも単に「アルバイト」と記載して問題なく免責が下りましたから、前述したような申立書の作成方法で全く問題無いと思います。