自己破産の申立をしたら、その後の生活にどのような影響が生じるか、不安になっ足り疑問に思ったりする人は多いのではないかと思います。
実際、自己破産の手続きでは所有する資産(財産)は裁判所に取り上げられて債権者に分配(配当)されるのが通常ですから、少なからず生活に影響が出るのは事実です。
しかし、自己破産の手続きは借金の返済ができなくなった人に対して「制裁」を加えるための手続きではなく、その借金を清算させて生活の再建を図るのが目的となる手続きですから、事実上の影響はそれほど問題にならないのが実情です。
そこで今回は、自己破産したら実際の生活はどうなるのか、自己破産の生活に与える影響などについて、個別の事項ごとに具体的に説明していくことにいたしましょう。
なお、影響の度合いにを分かりやすくするため、各項目ごとに「☆印」を3段階に分けて表示しています(「☆☆☆ 影響は大きい」「☆☆ ある程度影響する」「☆ ほとんど影響なし」)。
住居・家に与える影響
住宅ローンが残っている場合(影響度 ☆☆ )
自宅に住宅ローンが残っている人が自己破産をすると、その自宅は住宅ローン会社(銀行など)が任意売却するか、裁判所(破産管財人)が競売で売却することになりますので、自宅を失うことになります。
もっとも、住宅ローンの返済を滞納している場合には、たとえ自己破産をしなくても住宅ローン会社が競売にかけたり任意売却をしたりすることになりますから、住宅ローンのある家については、「自己破産をしてもしなくても同じ」ということが言えるでしょう。
住宅ローンが残っていない場合(影響度 ☆☆☆ )
住宅ローンが残っていない住宅(住宅ローンを完済したり、親から相続した持ち家など)を所有している人が自己破産の申立をすると、その自宅は裁判所に取り上げられ、破産管財人が競売や任意売却を行って売却し、その売却代金が債権者に分配(配当)されることになるのが通常です。
そのため、住宅ローンが残っていない家を所有している人が自己破産する場合には、自宅を失うことになりますので、この場合には影響は大きいといえるでしょう。
もっとも、自宅に住宅ローンが残っていない持ち家であってもその評価額が低額な場合には資産価値がないと判断されて取り上げられない場合もありますし、評価額が低額でなくても自由財産の拡張という手続きをとって取り上げられないようにすることも可能です。
≫ 自己破産すると住宅(家)や土地は処分させられてしまうのか
≫ 自由財産の拡張の方法 – 自由財産拡張申立書と上申書の記載例
どうしても住宅を取り上げられたくない場合には、その旨を自己破産を依頼する弁護士や司法書士によく相談して対処してもらうことが必要でしょう。
賃貸マンション・アパート・借家などの場合(影響度 ☆ )
住んでいる家が持ち家ではなく、賃貸のアパートやマンション、借家などの場合には、基本的に自己破産しても全く問題ありません。
自己破産した後もそのままその物件に住み続けることができますし、家主や不動産の管理会社に自分が自己破産したことが知られてしまうということもありません。
もっとも、家賃の滞納がある場合には話は異なります。
家賃の滞納があると、その家賃は「負債」と判断され自己破産の手続きに滞納家賃を含めて処理しなければならなくなりますので、場合によっては住んでいる家を追い出されてしまう可能性もあるでしょう。
≫ 自己破産すると賃貸しているマンションやアパートはどうなるの?
もっとも、家賃の滞納がある場合でも、その滞納額が比較的少額の場合にはそのまま滞納分を返済して賃貸を継続することもできますので、自己破産を依頼する弁護士や司法書士とよく打ち合わせをして対処法を考えていくことが必要となります。
車・バイク、その他の資産に与える影響(影響度 ☆☆ )
所有している車やバイク、その他の資産(腕時計や貴金属など)については、その売却価格が20万円を超える場合には全て裁判所に取り上げられて売却され、債権者に分配されることになります(※ローンの残っているものについてはローン会社が引き上げて売却することになります)。
(※他の財産と合計して50万円を超えるような財産については、個別の財産の価格が20万円を超えない場合でもすべて裁判所に取り上げられることになりますので注意してください。)
もっとも、自己破産が必要になるほど返済に窮している人の場合は、20万円以上するような財産を持っていないのが通常ですので、この点はあまり心配することもないと思います。
仕事に与える影響
会社員・派遣社員・パート・アルバイトの場合(影響度 ☆ )
勤務先から給料をもらっているような「労働者」の場合は、その雇用形態が正社員か契約社員、アルバイトかの区別に関係なく、仕事に与える影響は基本的に全くないといえます。
たとえ自己破産をしても、そのことが勤務先の会社に知られてしまうことは基本的にありませんし、仕事上何か支障が出るということも基本的にありません。
ただし、勤務先の会社からお金を借りていたり、給料の前借がある場合には、勤務先の会社を「債権者」として自己破産の申立をしなければなりませんので影響は大きくなります。
また、勤務先の会社が給料の未払いを起こしている場合にも、その未払い分を給料を「資産」として裁判所に報告しなければならないため、自己破産の申立をすることで影響することがありますので注意が必要です。
自営業の場合( ☆☆ )
自営業者が自己破産をしたとしても、そのことが直接自営業の仕事に影響することはありません。
しかし、取引先からの買掛金を支払っていないような場合には、買掛金を支払っていない取引先を自己破産の「債権者」として扱わなければなりませんから影響は大きいでしょう。
また、借金の主な原因が自営業の仕事そのものにある場合(事業資金の借り入れがある場合)には、その自営業を廃業しないと根本的な解決にはならないため自己破産の免責(借金の返済が免除されること)が出される前提として廃業することを勧められる場合もありますので、自己破産が自営業者に与える影響は少なからずあるということができます。
≫ 自営業者が自己破産すると仕事を廃業しなければならないの?
もっとも、このように買掛金を支払えなかったり、事業資金として借りたお金を返せない自営業は、そもそもその事業自体が成り立っていないか、自営業者自身がその資質に欠けているかのどちらかだと思いますので(地震や天災などが原因の場合は別です)、自己破産することの影響というよりも自営業をすること自体に問題があると考えた方がよいと思います。
警備員や保険の外交員(販売員)などの場合( ☆☆ )
警備員や保険の外交員など、自己破産をすると資格制限に該当して仕事ができなくなるような職種に就いている人の場合は、自己破産の手続きを行うことによって仕事ができなくなるので影響は大きいといえます。
しかし、このような資格制限がある場合であっても、自己破産の手続き終了後はすぐに仕事を行えるようになりますから(通常は半年程度で自己破産の手続きは終了します)、それほど影響があるとは言えないでしょう。
保証人や連帯債務者に対する影響( ☆☆ )
自己破産する人の借金に保証人や連帯債務者が付いている場合には、自分が自己破産することによってその保証人や連帯債務者に請求がなされることになります。
そのため、自分の借金に保証人や連帯債務者がいる場合には、それらの人に大きな離京を及ぼすことになるといえるでしょう。
しかし、その保証人や連帯債務者もそれを承知の上で保証人や連帯債務者になったと考えることもできますから、ある程度割り切ることも必要でしょう。
もっとも、保証人や連帯債務者になってくれた人に対して多大な迷惑と経済的な損失を与えるのは事実ですので、そ事実は一生背負っていかなければならないことになるでしょう(たぶん一生恨まれます)。
子供や親に与える影響( ☆ )
自己破産は、「その自己破産の申立をする人」に限っての手続きですから、親が自己破産したからといって子供には何らの影響もありませんし、子供が自己破産したからといって親の財産が取り上げられるとかいうこともありません。
同居の親族の収入などについても裁判所に報告する義務はありますが、基本的にその同居の親族の財産が取り上げられるということはありませんので安心してください。
また、親が自己破産すると学校に自己破産したことがバレてしまうのではないかと心配している人もいるようですが、通常は学校に知られることはありませんのでこの点も安心してください。
なお、自己破産したことが戸籍に載ることはありませんので、自己破産すると結婚できないというような心配もする必要はありません。
官報で氏名と住所が公表される( ☆☆☆ )
自己破産の手続きを行うと、官報という国が発行する新聞のような冊子に「破産したこと」「住所」「氏名」が公表されます。
この官報は全国の官報販売所(裁判所の売店)で誰でも購入することができますし、図書館やインターネットでも自由に閲覧することができますから、自分が自己破産することは社会的に公にされることになります。
もっとも、官報を購入する人は通常はいませんし、インターネット上で閲覧が可能なのも過去1か月間のものに限られますから(http://kanpou.npb.go.jp/)、官報に公告されるからといって自分が自己破産することが人に知られてしまうという可能性はほぼゼロといっていいでしょう。
ただ、ヤミ金や悪質商法の販売業者などはこの官報の住所と名前をもとにダイレクトメールを送って勧誘することがありますので、そのような犯罪者集団に引っかからないように注意することが必要となるでしょう。
最低5年間ローンなどが組めなくなる( ☆☆ )
自己破産や個人再生、任意整理といった債務整理を行うと、信用情報機関に「事故情報(延滞情報)」として登録されます。
登録機関は5年間で、登録機関が過ぎれば抹消されますが、その登録期間内は新たな借り入れやローンを組もうとしても、その事故情報が問題となって審査が下りないことになります。
そのため、自己破産の手続きが終了した後は5年間は、新たに借金をしたり、カードを作ったり、ローンを組んだりということができなくなると思った方がよいでしょう。
銀行などの借金 | 個人情報の取扱い – 全国銀行協会 |
信販会社などの借金 | CICが保有する信用情報|信用情報について|指定信用情報機関のCIC |
消費者金融などの借金 | 登録内容と登録期間|日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関 |
もっとも、借金の返済が滞った時点ですでに事故情報として登録されているのが通常ですから、たとえ自己破産をしなくても借金の返済に行き詰った段階ですでに事故情報として登録されていると思いますので、実際には自己破産するかしないかで違いはないと思います。
以上、一般的に心配されているような事柄について、自己破産がどの程度影響することをまとめてみましたが、なんとなくお分かりいただけたでしょうか?
自己破産をするとある程度生活に影響することは事実ですが、自己破産したからといって生活が180度変わってしまってということはほとんどありません。
実際、私も過去にかなりの自己破産案件を処理してきましたが、一部の人を除いて自己破産の申立前と全く同じ生活をしています。
(※ちなみにその「一部の人」とは、自営業者や会社の社長さんなどです。事業を継続すると負債が膨らんでしまうため廃業させ、現在は会社員として働いています。)
このように、考え方によっては自己破産してもそれほど影響はないと言うこともできますから、色々と心配を重ねるよりも早い段階で弁護士や司法書士に相談して解決の道を探すのが最善の方法だと思います。
≫ 弁護士と司法書士、自己破産を依頼するならどちらがいいの?